書名:多様化・重層化するキャッシュレス決済
価格:定価1,540円(本体1,400円+税10%)
ISBN:9784911343029
発行日:2024年12月18日
著者名:山本 正行
発行元:独立行政法人国民生活センター
ページ数:80ページ
判型:B5判
本書は、独立行政法人国民生活センターのWebサイトコンテンツである「国民生活」誌上で、2022年6月号~2023年10月号まで連載された「多様化・重層化するキャッシュレス決済」(第1回~第16回)の内容を一部更新して1冊の書籍にまとめたものである。著者は「カード決済業務のすべて」(一般社団法人金融財政事情研究会、2012年)の書籍などを通じて、それまで詳細な情報が得にくかった国際決済カード業務の仕組みを体系的に整理して解説するなど、複雑に絡み合った決済業界事情をわかりやすく解きほぐして説明してくれることで定評のある、山本国際コンサルタンツ代表の山本 正行氏。
「コード決済」や「タッチ決済」などなど新しい名称のサービスが次々と登場し、キャッシュレス決済が「多様化」していることは誰の目にもわかりやすく明らかだが、それと並んで書籍タイトルに掲げられた「重層化」とはどういうことを指しているのだろうか。
例えば「キャリア決済」という支払手段を考えてみる。毎月定期的に発生する携帯電話料金と合わせて、通信事業者への支払いの際に通信料金以外の代金を上乗せして支払う仕組みだろうと思い至る。しかし、その「毎月の携帯電話料金」をあなたは一体どのように支払っているだろうか。昔ながらの銀行口座引き落としにしている人は多いだろうが、最近はポイント狙いでクレジットカード払いに変える人もかなりいる。請求書払いにしておいて、最寄りのコンビニで支払う人もいるだろうし、スマホアプリから請求書のバーコードやQRコードを読み込んで〇〇Payの残高で支払うなんてパターンも出てきた。
つまり、入口は「キャリア決済」であるものの、その後ろでクレジットカードであったりコード決済であったりと、別名の決済サービスを使用して支払いを完了する形態。これを著者は「重層化」と表現している。
先述した「コード決済」や「タッチ決済」にしても、著者が別にキャッシュレス決済の種類として提示する3つの方式―後払い(クレジット)、即時払い(デビット)、前払い(プリペイド)―のそれぞれに対応したサービスが提供されており、これだけを取ってみてもまさに「重層化」といえる状態にある。
さらに「重層化」は支払う側の問題だけでなく、代金を集金するお店の側にも生じている。お店はキャッシュレスでの集金にあたり、クレジットカード会社や電子マネー会社などそれぞれの決済サービス会社と契約を結ぶ必要があるが、「多様化」で溢れかえってしまったキャッシュレス手段を一手に取りまとめ、お店と決済サービス会社の間を仲介してくれる「決済代行会社」の存在が象徴的だろう。
このようにキャッシュレスが「重層化」してしまった結果、仕組みがわかりにくくなっただけでなく、詐欺や不正利用など予期せぬトラブルが発生した際に、そのスムーズな解決を妨げてしまっている実情もある。
本書には、発行元が国民生活センターであることからもわかるように、そうした消費者からの相談業務に携わる消費生活相談員や行政職員向けに、キャッシュレスに関連したトラブル対応時の勘どころを伝える目的も込められている。そのため、決済サービスを網羅的に紹介する各章が、仕組みの解説と、相談対応時に注意すべき点の2本立てで構成されていることも特徴である。
ところで本書では「タッチ決済」の定義を、「カードやスマホを店舗などの読取機にタッチさせることで支払うサービスの通称」としており、狭義の「国際決済ブランドによるタッチ決済」だけでなく、日本で提供されているFeliCa系の電子マネーやポストペイなどの総称として、「タッチ決済」の言葉を広義にとらえている点でも意義深い。(参考記事:【提言】日本国内で使われる非接触IC型決済の呼び方は、すべて「タッチ決済」に統一しませんか? | 電子決済マガジン2020年7月3日)
なお、本書は今どきの言葉でいえば「物理リリース(Physical Release)」される紙の本であり、B5サイズの大判。手に取りやすく、文字は大きめ、見開きで広げておくのにもちょうどよい。全80ページ・オールカラーで、わかりやすい図表が豊富に掲載されている。資料作成の参考としても使える一冊といえそうだ。
※本書は書店での店頭販売はなく、Amazonなどのネット書店がメインのため、購入時は注意されたい。
主な内容
- キャッシュレス決済の基礎知識
- 国際カードのしくみ
- 前払式支払手段を理解する
- キャリア決済
- コード決済
- タッチ決済
- 後払い決済(BNPL)
- プラットフォーム
- 相談を受ける際のポイント
- 海外のキャッシュレス決済の傾向と日本の今後