LINEは9月10日、同社事業の現状と構想を説明するビジネスカンファレンス「LINE DAY 2020」をオンライン開催した。メッセージ事業、広告事業、エンターテインメント事業、ニュース配信事業、ヘルスケア事業、フードデリバリー事業など多岐に渡る同社の各事業の戦略が語られた同イベントから、決済事業であるLINE Payのパートを紹介する。
Apple Pay対応により“非接触”機能をさらに強化
朝10時30分から午後3時30分まで、ほぼ丸一日に相当する時間感覚で開催された「LINE DAY 2020」。LINEの公式アカウントをフォローすれば誰でも視聴可能なオンライン開催(配信にはLINE LIVEを利用)とあって、LINE Pay・代表取締役社長CEOの長福 久弘氏(写真1)が登壇した正午前後の時間帯には約29万人が視聴していた(リアルタイムに表示された参加アカウント数。ちなみに、午後の最後にスペシャルゲストの長渕 剛氏が登壇したピーク時点では40万人を超えた)。
講演テーマに「New Normal x Payment」を掲げた長福氏は、「QRコード決済の利用額は昨年対比で6倍もの成長を遂げた。まだ地域によるばらつきは見られるが、日本のキャッシュレス化は、キャッシュレス戦争や、還元合戦などと騒がれながら、また日本政府の支援も得て、ものすごいスピードで成長してきた。政府の掲げるキャッシュレス比率40%の目標も前倒しで実現できそうな勢いだ」とこの1年を振り返る。その一方で、「日本が抱えるキャッシュレスの本質的な課題を解決できていないのではないか」との思いも抱いていたという。「われわれもそこを強調してきたところではあるが、日本ではキャッシュレスが『お得で便利』なもの以上でも、以下でもなく、他国がそうであるように、生活課題を解決するものにはなっていなかった」
そこにコロナ禍が襲ったことで、状況が一変した。「私もさまざまなところで『なぜキャッシュレス化するのか』、『なぜそれが必要なのか』と日々問われ続けてきたが、コロナ禍の中で“非接触”であることの重要性が増し、キャッシュレスに対して『衛生的で、健康を守るもの』という新しいニーズが生まれた」(長福氏)と話す(写真2)。
長福氏は、この非接触を強化する新たな施策として、LINE Payを2020年内にApple Payに対応させることを明らかにした(写真3)。対応する決済ブランドなどの詳細は追って発表されると思われるが、LINEの公式コメントによれば「これによりLINE Payは、前払い(残高)でも後払い(Visa LINE Payクレジットカード)でもApple Payがご利用いただけるようになります」と記されている。
「コード支払い、NFC、Visa LINE Payクレジットカードと、現在普及しているすべての決済手段に対応することになり、私たちが目指していたプラットフォームが完成する」(長福氏)
これによりLINE Payは、全世界9,000万以上の決済場面で利用可能になるという(写真4、5)。今後は、事業者からフリーランスなどへの支払いなどにも対応させていく方針だ。
注文から決済までLINEトーク内で完結できる「支払いリンク」
長福氏は利用者の側だけでなく、導入する店舗や事業者にとっても、キャッシュレスが業務の効率化や、顧客ニーズに応えながら事業を継続していくための必須事項になってきており、導入の必然性が増していることを実感しているという。特に、コロナ禍の影響が、大手よりも中小事業者(SMB)に大打撃を与えるものとの危機意識から、LINE Payではこれまでに2つの加盟店支援策を実施してきた。
1つは、入金申請の無料化。今年4月から6月までの期間、LINE Payで決済された売上をすぐに現金化できるようにしたところ、直近の入金申請は5倍から、ピーク時には12倍にもなったという。もう1つの施策は、精算サイクルの短縮。今年6月から、それまでのサイクルだった「月末締、翌月末入金」を「月末締、翌月初3営業日入金」に変更した。
さらに機能面では、今年11月から、LINEのトーク上で利用できる「LINE Pay 支払いリンク」を中小加盟店(SMB)向けに提供開始する(写真6)。コロナ禍により外出を自粛、来店できないお客に対してお店が商品やサービスを提供する場面で、お店がお客に決済リンク(URL)を伝えるだけでLINE Pay決済を完了できるようになる。LINE Pay加盟店では11月以降、公式の加盟店管理画面を通じて決済用のURLを自由に生成できるようになる。
オンライン講義や相談サービス、通販、テイクアウトの事前決済、デリバリー注文などでの利用を想定している。LINE Pay 支払いリンクの利用に際して、2021年7月までは加盟店手数料0%で提供される予定だ。
また、他に“非接触”での決済を支えるLINE Payのメニューに「請求書支払い」があるが、コロナ禍の下で決済件数は伸び続けており、今年5月は対前年比310%の急成長を遂げている(写真7)。そこでこうした支払いニーズへの対応を強化し、2021年春には東京ガス料金の払込書をLINEの通知に置き換えてペーパーレスで支払えるサービスを開始する。
eKYC機能を発展させた「LINE IDパスポート」構想も
長福氏は、LINE Payではこの日新たに発表されたようなサービス強化を図りつつ、次は「LINE Pay 3.0」を標榜していくという。「LINE Pay 3.0」とは、LINE Payが「公共性の高い認証ツール」になることを目指す世界観だ。
「便利なキャッシュレスだが、弊害やリスク、問題が発生することも宿命。非対面、非接触の時代だからこそ、受け取ったモノやサービスに対してお金を渡すためには、相手への『信頼』が重要になる」(長福氏)
そうした観点で同社が取り組んできたのが「本人確認」であり、とりわけ本人確認手続きをオンラインのみで完結する手段である「eKYC」に注目している。この「eKYC」は昨年からすでにLINEポケットマネーなどグループ内のサービスに導入を始め、運用実績を蓄積してきた(写真8)。
この延長線上にLINE Payが描くのは「LINE IDパスポート」と呼ぶ構想だ(写真9)。「どれだけ便利なオンラインサービスであっても、そのサービスを受けるために、あるいは口座を開くために、何日も待つ必要があったり、申し込み時のハードルの高さが課題で普及しにくかった。これを、一度LINEで本人確認すれば、他のLINEのサービスでもスムーズな本人確認が可能になる仕組みとすることで解決する。将来的には外部企業に対しても信用が担保される、次世代の本人確認サービスと言えるだろう」(長福氏)。
「LINE IDパスポート」のサービス詳細や具体的な導入スケジュールなどは明らかにされなかったが、LINE Payの根幹を成す機能となりそうだ(写真10)。
なお、LINEの金融・決済事業関連では、他にLINE Credit・プロダクト企画統括の川崎 龍吾氏が登壇した。同社が2019年6月末から提供を開始したスコアリングサービスの「LINE Score(スコア)」は、今年5月6日時点での登録ユーザー数が500万人を超えた。これは「信用スコアサービスとしては国内ナンバーワンの規模」(同・川崎氏)だという。
この信用スコアも活用して同社が2019年8月から提供を始めた個人向けローンサービス「LINE Pocket Money(ポケットマネー)」の利用ユーザー数は、同日時点で20万人。貸付実行額は100億以上に上っていることが明らかにされた(写真12)。