SNSのmixiを運営するミクシィは2019年7月13日と14日の2日間、千葉市・幕張新都心の幕張メッセ国際展示場で開催したイベント『XFLAG PARK 2019』にて、GMOインターネットグループとの協業により開発した「タッチ決済」システムを初導入した。計4万人の来場者全員に配布したリストバンドにはICタグが埋め込まれ、会場ではリストバンドを決済端末にタッチするだけで、Web上から事前登録したクレジットカードか、コンビニ決済などの後払いで支払いができる仕組みを提供した。
リストバンドのタッチでクレカ決済か後払いが完了
ミクシィがイベント特化型のキャッシュレス決済システムと位置付ける「タッチ決済」の開発と運用は、GMOペイメントゲートウェイ(クレジットカード決済システムの提供)、GMOペイメントサービス(後払い決済システムの提供)との協業で行われた。
来場希望者は、事前に専用アカウントの「XFLAG ID」を開設し、XFLAGチケットのWebサイトから有償のチケットを購入する。すると折り返し、入場チケットとして認証用のQRコードが配信される。イベント会場への入場時にはこのQRコードを入場ゲートで提示して認証されると、引き換えにXFLAG IDと紐付けられた専用のリストバンド「ORABAND(オラバンド)」がもれなく受け取れる仕組み。
先のチケット購入サイトでは、「タッチ決済」のページから「クレジットカード」か「コンビニ後払い」が選択でき、ここからカード情報や後払いの請求書送付先住所など必要な情報を入力しておく。この登録を済ませておけば、来場者はリストバンドをタッチするだけで会場内での物販や飲食の支払いを完了できる。
また、タッチ決済で支払うと、ルーレットが回ってポテトやポップコーンの味がランダムに当たる仕掛けや、最大4名まで割り勘決済ができる「エンタメ決済」の機能も盛り込まれた。
なお、「XFLAG」はミクシィのエンターテインメント事業のブランドで、「モンスターストライク」や「ファイトリーグ」をはじめとするゲームや映像コンテンツなどを発信している。
来場者4万人のうち5,000人が「タッチ決済」を利用
さて、この2日間のイベントを通じて「タッチ決済」はどの程度、利用されたのだろうか。ミクシィの公式発表ではイベント来場者が4万人、その全員にリストバンドが配布された。そのうち、「タッチ決済」にクレジットカードか後払いをWeb上から登録し、イベント会場で実際に利用したのは5,000人以上(全体の12.5%)だという。
実は、『XFLAG PARK 2019』の会場内では「タッチ決済」だけでなく現金も使用可能であったため、必ずしも「タッチ決済」を使わなくても、いつものように現金で支払えばよいと考える来場者が相当数いたということだろう。
完全キャッシュレスなイベントなども目にすることの増えた昨今、あえて会場内の決済を「タッチ決済」に限定しなかったミクシィの狙いはどこにあったのだろうか。
「われわれの仕組みは、裏側で(ミクシィが提供してる)ゲームのデータともつながっているので、例えばゲーム内の特典と連携したり、反対に物販などの実績をゲームと連携することができる。そうした仕掛けは、ゲームに限らず、スポーツや音楽の興業にも有効なのではないかと考えている」(ミクシィ ライブエクスペリエンス事業本部 LX開発室 室長の石井 訓象氏)
つまり、イベントのキャッシュレス化そのものが狙いではなく、キャッシュレスの結果として得られるデータを、いかに自社のイベント事業に活用していけるかに力点を置いていたということだろう。
また、5,000人が利用したタッチ決済の内訳は、クレジットカードが約60%、後払いが約40%だった。後払いは後日郵送される請求書を使って、コンビニでの現金払い以外に、銀行振込とLINE Pay請求書支払いも利用できる。
ミクシィでは特に、利用者の人気が高い「後払い」に着目しており、今回のイベントでもその経験を深めていきたいとの思いがあったという。「後払いは3万円までしか利用できず、連絡があればすぐに止められる仕組みとしており、ユーザーに安心感を提供している。他方で、後払いの未回収リスクについてはわれわれ事業者側の課題として受け止めている。特に非対面のEC分野ではなく、対面の興業やイベントに後払いを適用した場合のリスクや示唆について、知見を広げていきたい」(同・石井氏)
ICチップは数円のNTAGを採用、「IFは変わっても決済の基盤は変わらない」
なお、このイベントで4万本を配布したリストバンドだが、埋め込んだICチップにはISO/IEC 14443 TypeA準拠の「NTAG」を採用しており、「チップのコストは数円程度」(同・石井氏)という。また、リストバンドの原価以上にシビアなのが郵送コストで、今回はリストバンドそのものを郵送するのでなく、入場用にはQRコードを配信し、入場ゲートでXFLAG IDと紐付けたリストバンドと引き換えることで効率化を図ったのだそうだ。
「(今回はリストバンドを採用したが、)将来はスマホだったり顔認証だったりと、認証のインターフェースは変わるかもしれない。しかし、決済の基盤のところは変わらないと考えている。イベントを通じて『体験として面白くない』との意見や、決済が上手くいかない場面もあったので、そこはしっかりと改善していきたい」と石井氏は意欲を見せている。