3月初旬に東京ビッグサイトで開催された「リテールテックJAPAN 2018(主催・日本経済新聞社)」。人出不足、働き方改革など、流通業界にとっても無縁でない課題キーワードに対し、AIや自動認識技術、キャッシュレスなどの製品やソリューションが出展各社から続々と発表され、近年にない賑わいを見せていた。電子決済に関連する技術やサービスの視点から、同イベントを前後編に渡って紹介する。
■ドコモ新規参入でQRコード決済の日本市場はどうなる
中国での爆発的普及をきっかけに、日本国内への導入にも大きな注目を集めているQRコード決済。利用者がスマートフォン(スマホ)アプリに表示したQRコードをお店が読み取ったり、反対にお店が表示したQRコードを利用者がスマホアプリで読み取ることで、支払いを完了できるサービスだ。
すでに日本国内で提供されているQRコード決済サービスには、LINE Pay(LINE)、楽天ペイ(楽天)、Origami Pay(Origami)などがあるが、異業種からのビッグプレーヤー参入として注目を集めているのがNTTドコモがこの4月から提供する「d払い」である(写真①)。
ドコモと言えば、10数年前に自ら非接触IC決済サービスを「iD」のブランド名で立ち上げ、自社でもいわゆるキャリア決済(毎月の通信料金への合算請求)をはじめ、クレジットカードやプリペイドカードの「dカード」を展開してきた経緯がある。
新たに開始する「d払い」は、キャリア決済のほか、VisaかMastercardのクレジットカード払いが利用できる。クレジットカードを登録する場合には、ドコモ以外のキャリア契約者でも利用が可能だ。
今回投入する「d払い」について、iDのオプション機能として追加する方法でなく、新たに別ブランドのサービスとして立ち上げた理由について、説明員は「非接触ICリーダの設置が必要な『iD』はお店にとって若干ハードルが高く、小規模のお店まで対応するのは厳しい面もある。そこを埋めるのが『d払い』で、市販のタブレットとアプリだけで簡単に導入できる」と教えてくれた。
今年1月に発表されたばかりのd払いについて、実機デモが見られる機会とあって、ドコモブース内でも人気を博していたようだ。ドコモ提供によるスマホ側の画面(写真②)に加えて、d払いのサポートを表明しているAirレジ、ネットスターズの加盟店端末の実機が展示されていた(写真③)。初期の導入先として名乗りを上げている加盟店にはローソンなどの大手もあるが「他社のQRコード決済サービスを先行して導入している店舗では、(同じQRコードを利用する決済は)開発が楽に済む」(説明員)との事情も働いているようだ。
中国テンセント社の代理店として、日本国内店舗でのWeChat Pay(ウィーチャットペイ)受け入れを支援しているネットスターズでは、LINE Pay、d払いといった日本人向けQRコード決済サービスへの幅広い対応をアピールする展示を行っていた(写真④)。
ちなみに、WeChat PayとAlipayという中国の2大サービスでは、契約の問題もあり、加盟店が同時に両サービスに対応するのは難しい面があるとも言われるが、ネットスターズの説明員によれば「WeChat PayとAlipay、それぞれアプリケーションが別々になってしまうことは避けられないが、1台の決済端末で両サービスに対応することは可能」とのことだった。
WeChat Pay、LINE Pay、d払い、Yahoo!ウォレット、楽天ペイ、当社に対応できないバーコード・QRコード決済はない、とアピールするかのような展示ブース(写真⑤)を出したのが、バーコードカードである「POSAカード」の技術と運用で実績のあるインコム・ジャパンだ。同社がデモを披露していたのが、提示されたスマホ画面のQRコードをPOSレジ側で読み取る際にサービスを判別し、そのまま決済処理に進める店舗側の操作イメージ(写真⑥)。「QRコード内に埋め込まれた各社のサービスコードを読み取ることで、自動判別できる技術」(説明員)を応用して実現したという。
■店頭のオペレーションに寄り添った日本型QRシステムの提案も
QRコード決済という新興のトレンドに対して、従来から決済事業者や流通業の支援を担ってきた事業者からは、より現場視点でのニーズやオペレーションを見据えたサービスの提案も見られた。
NTTデータのブースでは「CAFIS Pitt」の名称で、加盟店がお客に向けて提供するスマホアプリと連動するQRコード決済サービスを打ち出していた。支払方法は、クレジットカード決済、銀行口座引き落とし、ポイントやクーポン利用などさまざまな運用に対応できるという(写真⑦、⑧)。同社ではこれまでも、銀行口座を利用したスマホ決済サービスを2018年度上期の導入目指して実証実験を行うなど、QRコード決済サービスの提供に向けた取り組みを活発化してきていた。今回の展示会ではその展開方法や提供の仕方によって、QRコード決済サービスにはさまざまなバリエーションがあり得るということを提示した恰好だ。
QRコードの開発企業であるデンソーウェーブのブースでは、流通小売業でのスムーズなレジオペレーション実現を強く意識したサービスの提案がされていた。同社の場合には、「お店が表示したQRコードを利用者がスマホアプリで読み取る」方法を提案。最近の小売業のレジ周りでは、お客の側にも小型のディスプレイ画面が向いており、精算中の商品名や金額が表示されている。ここに会計用のQRコード画面を表示し、お客にスマホアプリで読み取ってもらうことで支払いを完了させる(写真⑨)。売りは、お客がQRコード決済を読み取って決済が完了すると、その結果をセンター側からリアルタイムで受信したPOSレジから自動で決済完了通知がプリントされてくる動作。店員の挙動を含め、従来のPOSレジ操作の流れを踏襲した作りとした。
同様の発想で、オムロンのブースでも「スマホQR決済自動判定モジュール」を参考出品していた(写真⑩)。加盟店側が提示するQRコード決済では、決済完了についてお客のスマホ画面を店員が目視で確認する必要があるが、同社ではこの作業を業務負担とミスが発生するところと指摘し、POSレジとUSBでつながる自動判定モジュールを導入することでこの課題を解決できるという。
QRコード決済には、元々(一次元)バーコードに関わってきた事業者からの参入も出て来ている。ビリングシステムの提供する、払込票・納付書向けのバーコード決済サービス「PayB(ペイビー)」は、コンビニや銀行の払込票に印字されたバーコードやQRコードを専用アプリから読み取ることで、公共料金や税金などを即座に銀行口座から支払いできるサービス。ブースではビリングシステムというよりも、ペイビーに対応した金融機関の個別のスマホアプリ群を紹介する構成となっており、百五銀行、十六銀行、南都銀行、りそな銀行、山口FG、武蔵野銀行などのアプリ紹介ちらしと共にアプリのデモが行われていた(写真⑪)。ここまでの展開では払込票・納付書向けサービスとして台頭してきたペイビーだが、このビリングシステムも店頭でのQRコード決済サービスへの拡張を計画しているという(写真⑫)。
このように、展示会場をひと巡りするだけでも、さまざまなバックボーンを持ったさまざまな業種の事業者が、QRコード決済というまだ見ぬ事業機会に向けて積極的に取り組みを始めていることがわかるだろう。
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