話題のタッチレス&ウォークスルーな「顔認証改札機」も続々登場、2年ぶり開催の鉄道技術展から認証・決済の新提案を現地レポート

幕張メッセ(千葉市美浜区)で2年ごとに開催されている鉄道技術展が、今年は土曜日を含む11月26日から11月29日までの4日間に渡って開催された(「第9回鉄道技術展2025」主催・産経新聞社)。好天にも恵まれ4日間で計3万9,120人が訪れた同展示会会場から、いつもの“電子決済マガジン視点”にて、最新の顔認証改札機や鉄道業界で活躍する決済システムなどをレポートする。あわせて【番外編】としてお楽しみコーナーもお送りするので、どうぞ最後までお付き合いのほど。

展示会場は幕張メッセの4〜8ホール

JR東日本メカトロニクス〜上越新幹線で実証中のウォークスルー顔認証改札機を披露

 JR東日本メカトロニクスのブースでは、今年11月6日から上越新幹線の長岡駅と新潟駅間で行っている顔認証改札機を用いた定期券利用の実証実験を紹介した。顔認証改札機は、長岡駅にはパナソニック コネクト製、新潟駅には日本電気(NEC)製と、異なるメーカーの機種が設置されているのが特徴で、会場ではNEC製の改札機がデモ展示されていた(写真1)

写真1 JR東日本メカトロニクスのブースには、日本電気(NEC)製の顔認証改札機の実物が登場

 既設の新幹線改札機に、顔認証改札機を上からかぶせて設置しているそうで、デザインは近未来的なものの、筐体自体はコンパクトにまとまっている印象を受けた。顔認証のためのカメラは、改札ゲートの通行者から見て右側の側面に、位置違いで2台が設置されていた(写真2〜4)。2台のカメラにより登録のある本人かどうかを二重チェックすることで認証精度を高めている。

写真2(上段)ゲートレーンにはグリーンのラインが明滅する表示、写真3(中段)顔認証が正常終了するとOKのマークが出る、写真4(下段)顔が登録さていないとエラーになりレッドで通行できない旨が表示される。なお、ゲート表面をよく眺めるとカメラ2台の窪みが見える(※写真は一部、修整しています)

 一方のパナソニック コネクト製の顔認証改札機は、ビデオ映像で特長が紹介されていた(写真5〜6)。このタッチレスのウォークスルー(通り抜け)顔認証改札機の実証実験は来年3月末まで行われる予定だ。

写真5、写真6 パナソニック コネクト製の顔認証改札機は高さのあるトンネルタイプということもあり、鉄道技術展の会場では実機ではなくビデオ映像により紹介されていた。スノーボードなど大きな荷物を抱えていてもそのまま通過できるのもウォークスルー顔認証改札のメリットだ

 同じブース内にはJR東日本エリアの駅でも当たり前に見られるようになった「QR対応自動改札機」の実機も展示されていた(写真7)。筐体の赤色が際立つQRリーダー部分には駅務機器向けの「QB40-XR-J」が採用されており、高速読取ができるほか、複製防止QRコードやSQRC(セキュリティ機能を持ったQRコード)にも対応可能な特長がある。

写真7 都内のJR改札でも普通に見られるようになった赤いクチバシ状のQRリーダー

JR東日本〜ミリ波通信対応の改札機でタッチレスを実現

 東日本旅客鉄道(JR東日本)では、ブース入り口付近に展示された「ミリ波通信を活用したタッチレスゲート」(写真8)が来場者の目を引いていた。既存のSuicaカードを専用の端末ケースに差し込む(写真9)ことで改札機との間でミリ波による高速通信が可能になり、端末をポケットなどに入れて持っていればわざわざ取り出したりかざしたりする必要なくゲートを通過できる。いわゆる「タッチレス」の運用になるが、それでも1分間に69人が連続通過できる性能を実現するという。

写真8 ミリ波を使った高速通信に対応するタッチレスゲート(※写真は一部、修整しています)

写真9 通常のSuicaカードを専用端末にセットするだけで利用できるので、あらためて別にサービス登録する必要がないという(※写真は一部、修整しています)

 なお、JR東日本では鉄道技術展が開幕する前日の11月25日に、モバイルSuicaとモバイルPASMOのアプリ内で利用できる新しいコード決済サービス「teppay(テッペイ)」を発表していたが、発表が直前過ぎたためか、teppayを直接展示するスペースはなかった。同社においてコード決済の提供は“Suicaの当たり前を超える『Suica Renaissance(スイカ・ルネッサンス)』”構想の一環として位置付けられており、ブース内ではこのSuica Renaissanceのコンセプトや内容を紹介していた(写真10)

写真10 コード決済も、Suica RenaissanceによるSuicaの進化形態の1つ

NEC〜究極の顔認証活用で、改札ゲートも不要に

 先述したJR東日本メカトロニクスのブースでウォークスルー顔認証改札機を展示していた日本電気(NEC)だが、同社の個別ブースではさらに未来的な発想で、改札ゲート自体をなくしてしまった「ゲートレス顔認証改札」のデモを披露していた。
 事前に顔情報を登録(写真11)しておくと、正面奥のディスプレイ上に設置されたカメラが随時、顔認証を行い、利用者がブース床面に色分けされた線を踏み越えるたびにアクションが起きるようになっていた(写真12〜13)。最初の青い線では顔登録状況の確認結果が手前ディスプレイに表示され(写真14)、次の緑の線では天井付近に設置されたディスプレイに利用者が保有している乗車チケットの認証結果を図形のみで表示(写真15)、最後に赤い線を踏み超えると正面のディスプレイに表示された利用者の顔のすぐ下あたりに「その先で向かうべき方向」が示される仕組みだ(写真16)。いずれも顔情報と紐付け登録された乗車チケットの情報と連携して、改札通過時に有用な情報を提供しようというコンセプトだ。

写真11(上段)タブレットで顔を撮影してもらい、写真12(中段)床面に3本線の引かれたゾーンを進んでいくと、写真13(下段)それぞれを通過するタイミングで各表示に変化が起きる (※写真は一部、修整しています)

写真14 第1のアクションは顔認証OKの表示

写真15 第2のアクションは天井付近ディスプレイへのチケット種別の表示

写真16 第3のアクションでは、あらかじめ登録された利用者の顔の下あたりにその人が進むべき方向が示される(※写真は一部、修整しています)

 顔認証の性能としては1分間に100人までの認証が可能というこの「ゲートレス顔認証改札」、NECでは2年前に開催された鉄道技術展でも紹介していたのだが(2023年11月の関連記事)、前回は比較的大規模なシステムに見えていたものが、今回はコンパクトにまとまった印象があった。華々しさがやや鳴りを潜める一方で、現実感が増したようにも感じられたのは(*筆者の個人的な感想です)、現場への導入に一歩近付いたことの表れなのかもしれない。

写真17 NECが2024年12月から金融業界など向けに提供開始しているパーソナルアシスタント「NEC Personal Consultant」。アイシンが開発したマルチモーダル対話エージェントに、NECの生成AI製品や顔認証技術を組み合わせることで、個人の嗜好に寄り添った応答を返すという。対話者をあまり直視せず、頻繁に目線を逸らすアシスタントさんの振る舞いが妙にリアル

JR四国〜“目視前提”のチケットアプリがバージョンアップ

 四国旅客鉄道(JR四国)のブースでひときわ目立っていたのはJR四国チケットアプリの「しこくスマートえきちゃん」(写真18)。QRコードを認証に用いるデジタルチケットシステムだが、導入は2022年11月と早く、サービス開始から丸3年が経った現在までに11万人が利用している。
 乗車券の切符(1回券)だけでなく、特急券や企画乗車券なども購入でき、代金の決済はオンラインでのクレジットカード決済とPayPayに対応する。スマホアプリが駅窓口や券売機の代替えになる効果も期待されて導入に至ったという。2023年4月からは通勤・通学定券にも対応を広げるなど取扱券種を広げてきた。

写真18 JR四国チケットアプリの「しこくスマートえきちゃん」

写真19 電子チケットを提示する画面の最新イメージ(※写真は一部、修整しています)

 一方でJR四国の実情として、QRコードの読取に対応する自動改札機の設置数が3駅(高松駅、松山駅、高知駅)に限られることもあり、基本的にはチケット画面を駅係員や乗務員が目視で確認する運用になっている。そこで今年12月1日にリリース同アプリの新バージョンからは、目視確認のしやすやに加えてセキュリティ面も向上させた提示画面(写真19)に変更されるそうだ。

日本信号〜交通系も顔もタッチもQRも、1台に“全部載せ”の自動改札機

 日本信号は“全部載せ”の自動改札機(写真20)の実機をブース内に設置し、来場者が実際に体験できるデモを行っていた。“全部載せ”でありながら比較的コンパクトな外観に仕上がっているのが特徴で、交通系ICのほか、QRコード、タッチ決済(写真21)、そして顔認証と、延べ4種類の乗車方法に1台で対応する。
 そのうち顔認証については、ゲートの右奥上面に据え付けられたカメラ(写真22)によって顔を識別する仕組み。筆者もその場で顔を撮影してもらい改札の通過を体験させてもらったが、特にカメラを意識することなくスムーズに通り抜けることができた。

写真20 1台で交通系IC、QRコード、タッチ決済、顔認証という4種類の乗車方法に1台で対応する。その割にコンパクトな筐体も魅力的

写真21 交通系ICとQRリーダー、タッチ決済の配置は、誤タッチを防ぐため絶妙に計算されたもの

写真22 顔認証用のカメラは改札ゲートの終端部に設置

 他に展示されていた「MaaS券売機」では、よく見慣れた既存の券売機でありながら、既存の決済システムを埋め込んだ外観が新鮮で(写真23)、そう言われてみれば券売機でのマルチ決済対応とはこれで済んでしまうのか、と率直な感想を抱いた。

写真23 「MaaS券売機」には飲料の自動販売でもよく見かけるあのマルチ決済端末が埋め込まれていた

 そのほか、2年前は屋外でデモを披露していた高所作業用ロボットが、今回は会場内でお披露目されていた(写真24〜25)。今年、公募によりその名称が決まった「ZIZAI(ジザイ)」は、その外形寸法がずいぶんとスリムになり、作業員が利用するカーゴ内に収まるようになったそうだ。腕に取り付けた電動ノコギリで現場の木の枝をカットしたり、伐採した枝をアームで掴んだりと、高所や危険な場所での活躍が期待されている。

写真24 2年前の機体と比べ、目に見えて小型化した高所作業用ロボットの「ZIZAI(ジザイ)」

写真25 操縦者はVRゴーグルと遠隔アームを使って、自身の感覚でZIZAIを操縦できる

高見沢サイバネティックス〜3種の自動改札機、視線で操作する券売機も

 高見沢サイバネティックスではブース内に3種類の自動改札機を設置して、デモンストレーションを行っていた。1台目はマットな紺色が落ち着いた印象を与える「TAG-16000」で(写真26)、三角形を組み合わせた幾何学的な造形が特徴。その中にタッチ決済(EMVリーダー)とQRコードのリーダーが並置されている。同じシリーズから、ゲートのないスタンド型の機種もあわせて展示されていた(写真27)

写真26 「TAG-16000」はタッチ決済とQRコードのリーダーを搭載

写真27 「TAG-16000」のスタンド型。簡易改札機として利用される

 2台目は、南海電鉄でも採用されている、やはりタッチ決済とQRコードの読取に対応する自動改札機(写真28)。1台目と同じ機能であっても形状やデザインによって印象は大きく変わることがよくわかる。

写真28 こちらもタッチ決済とQRコードの読取に対応するが、デザインは大きく異なる

 そして3台目は、RFタグ(ICタグ)と顔認証の2つに対応した改札機のデモである(写真29)。RFタグは、リーダー(ポールに据え付けられた白い盤面状のもの)から離れた距離でも認識するため、改札を通過する際にタグをかざしたり特別なアクションの必要がなく、ただ通過するだけでよい。同時に搭載されている顔認証も同じで、やはりポール上部にある液晶画面部分に自分の顔を映して通過するだけ。いわゆる「タッチレス」での改札通過を提案するための展示だという。

写真29 RFタグと顔認証の2つに対応する自動改札機(※写真は一部、修整しています)

写真30 高見沢サイバネティックスのブースで、改札機以外の展示で文字通り「目を引いた」のは、視線で操作できる券売機の試作モデル。券売機の画面を見つめていると円形のガイド線が表示され、これを目線で誘導しながら操作を行う

ルミーズ〜タッチ決済乗車券の乗車履歴照会システム

 鉄道技術展に初出展のルミーズでは、タッチ決済による乗車券利用時の履歴照会を容易に行えるシステムを実演で紹介した(写真31〜32)。乗降時に利用したタッチ決済対応のカードやスマートフォンを小型のリーダーにかざすと、管理用のPC画面で乗車履歴が確認できる。

写真31 ルミーズの交通決済ソリューション「aegise2.0 Transit Gateway」の決済端末、写真32 タッチ決済による乗車券利用時の履歴照会システム。右下のリーダーに乗降時に利用したタッチ決済対応カードやスマホをかざすと乗車履歴を表示する(※写真は一部、修整しています)

 また、長野電鉄が自動券売機用に導入している同社の券売機・精算機向けキャッシュレス端末もデモを披露(写真33)。現在稼働中のマルチ決済端末「salo-01」が今後、生産完了となるため、後継機種に当たる「salo-02」端末も紹介していた(写真34)

写真33 券売機・精算機向けキャッシュレス端末のデモ。券売機を簡便に実現可能という。 写真34 「salo-02」は写真33に見える「salo-01」の後継機種(※写真は一部、修整しています)

レシップ〜キャッシュレス対応改札機を決済端末で実現

 レシップのブースでは、キャッシュレス対応改札機として、マルチ決済端末「LV-1」が展示されていた。南阿蘇鉄道や福島交通などで導入されている。会場ではタッチ決済に加えて、QRコードリーダーも内蔵した端末も紹介されていた(写真35)

写真35 マルチ決済端末「LV-1」により、キャッシュレス対応改札機を実現する

日立製作所〜「SAKULaLa(サクララ)」では指静脈の買い物デモ

 日立製作所と日立レールの合同ブースの1コーナーでは、東武鉄道と共同で提供している生体認証サービス「SAKULaLa(サクララ)」を紹介していた。ただ、展示スペースとの兼ね合いから、東武鉄道が東武宇都宮線で今月11月13日からスタートした顔認証の交通乗車券向け展開ではなく、ショッピングを想定した指静脈での認証決済のデモを展示していた(写真36)
 今回のデモでは、指静脈認証に成功した後、決済を行う直前に登録済み電話番号の下4桁を入力してもらうことで認証精度を高める運用となっていた(写真37)

写真36 指静脈認証による決済のデモ、写真37 生体認証に成功すると追加認証として、登録済み電話番号の下4桁の入力が求められる

【番外編】お楽しみノベルティコーナー

 鉄道技術展は、今年は土曜日も開催とのことで、鉄道ファンやここでしか手に入らないノベルティグッズ目当ての来場者も多かったのではないだろうか。
 最後に、筆者が会場で見つけた(貰った)ノベルティを紹介しておこう。

写真38 「QR対応自動改札機」を来場者が実際に体験できるようになっていたのだが、ダミーの紙レシートなどではなく、わざわざQR乗車券タブレット(食べるほう)を特注して配布する点は実に心憎い演出だった。個人的に、今年の「ノベルティ大賞」はこちらに差し上げたい(JR東日本メカトロニクス)

写真39 日本信号名物の「シグナルカレー(中辛)」はアンケート記入者などへ限定で贈呈されたもの。パッケージ表記など芸が細かいが、「第2弾」と銘打たれており、その人気アイテムぶりを伺わせた

写真40 生体認証サービス「SAKULaLa(サクララ)」のマスコットキャラクターは、桜ラッコの「サクラッコ」と、貝の「ララガイ」のコンビ。この付箋とビニールバッグの愛らしさには、人気が集まりそうな予感しかない(*個人の感想です)(日立製作所/日立レール)

写真41 ノベルティではないが、高輪ゲートシティの街並みを200分の1で再現した模型の展示は圧巻だった(JR東日本)

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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