三井住友カードは8月27日、ベルサール汐留(東京・中央区)とオンライン配信で、同社の公共交通事業への取り組み状況を紹介するイベント「stera transitシンポジウム2024」を開催した。stera transitを銘打ったシンポジウムの開催は、2020年7月以来の2回目となる。その冒頭にはイベント主催の三井住友カードが登壇し、stera transitを通じたタッチ決済乗車サービス提供の「次」なる展開を披露した。
首都圏でも導入が進む2024年度は「相互直通運転にも対応していく」
三井住友カードが2020年7月に提供を開始した「stera transit(ステラ・トランジット)」は、国際ブランドのタッチ決済に対応する公共交通ソリューションの名称。日本における公共交通へのタッチ決済導入は、三井住友カードが提供する同ソリューションと、「Visaのタッチ決済」を展開するビザ・ワールドワイド・ジャパン(以下「Visa」)の両社が牽引してきた印象が強い。
見込みでは今年度中に36都道府県で営業する180社が導入を完了(バス台数3,500両、鉄道駅数1,600駅)する予定で、来年度の2025年度末までには42都道府県をカバーする規模になるという(画面1)。
また今年度は、関西都市圏の大手私鉄・公営各社の全駅(780駅)でタッチ決済が利用可能になる予定のほか、首都圏の大手私鉄各社でも実証実験が始まり、三井住友カードの想定では430駅で利用可能になるという。
「本年度は首都圏での導入が進み、相互直通運転にも対応していく」(三井住友カード・代表取締役社長兼最高執行役員の大西 幸彦氏/写真1)
タッチ決済乗車の導入効果で、交通事業者がすぐに実感いただけるものとして「現金の取り扱い低減」があるそうだが、大西氏が感じているのは、2020年の展開初期と現在との違いとして公共交通の課題が多様化していることがあるそうだ。
「スタート当初はインバウンド対策の観点だったが、直後からのコロナ禍によるテレワークの普及に伴う生活スタイルの変化に合わせた柔軟なサービス提供など、昨今では地域交通のさまざまな課題の解決に利用していく事例が増えてきていると感じている」
「MaaSアプリ」は交通事業者の自社アプリとの連携も視野に
そこで、多様化したニーズに応えるためにstera transitでも新サービスを追加し、今後提供していく。その1つは、「1日」や「月額」での上限割引メニューといった基本割引メニューの拡充。対象にするのは乗車スタイルだけでなく、マイナンバー連携による年齢や居住地に合わせた割引や、時間帯に応じたオフピーク割引、さらには定期券機能などへも提供範囲を広げていく。
2つ目は、観光施設やホテルなど、交通移動の周辺にある消費やサービスとの連携。行政サービスなどとの連携も視野に入れ、stera transitをプラットフォーム化する。
3つ目は、乗降データや属性(国籍を含む)、消費情報などのデータ分析を可能にするデータダッシュボードの提供(画面2、3)。例えば夏休みシーズンの人出を比較分析することで、新たな企画券や広告の投入などにつなげることを想定する。
最後の4つ目は、「MaaSプラットフォーム」の構築だ。「MaaS(Mobility as a Service)」の本来の意味は、公共交通に他の移動サービスを組み合わせて提供する、あくまで「移動」の最適化に着目した構想だが、三井住友カードはこれらに加えて同社の持つデータ分析機能を活用して、周辺の流通小売・サービス業や行政なども結びつけようとするもの。具体的には「MaaSプラットフォーム」をアプリ化して提供する(画面4)。このアプリでは、タッチ決済も乗車方法の1つに位置付けられる。
「MaaSに関しては国内でもさまざまな事業が展開されているが、全国の交通事業者に(当社が提供する)共通のクラウドを利用していただき、汎用的なクレジットカードを使っていただく」(大西社長)。
まずは2025年3月から企画券の販売提供を目指してアプリを構築し、今後機能を拡張していく方針。交通事業者自身がMaaSアプリを作成する場合でも構築を支援するほか、「他社のアプリにエンベデッドしていただく」(大西社長)ことも想定しているという。
また、stera transitを採用する交通事業者や機器メーカー、関係機関などを構成メンバーとする情報連絡会を立ち上げる。サービス内容に関する報告をはじめ、運営上の課題や要望の共有、サービス異常時の対応方針などについて情報共有する場となることが想定されており、stera transitの安定的なサービス運営やさらなるサービス拡充を目指していく方針だ。
レポートの後編では、全国の交通事業者が紹介したタッチ決済乗車サービスを取り巻く最新状況を報告する。