今回で19回目となる「金融国際情報技術展 FIT 2019」(主催:日本金融通信社、共催:金融ジャーナル社、CMC)が、今年は10月24日、25日の日程で東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された。金融機関の関係者が多数訪れた同展から、電子決済に関連しそうな展示物を中心にレポートする。
リキッド「LIQUID eKYC」
指紋認証を用いた認証や決済サービスを提供する印象が強いLiquid(リキッド)社だが、FIT展では顔認証を活用した「eKYC」に特化した展示を行っていた。
昨年、2018年11月の改正犯収法施行により、本人確認をオンラインで完結するeKYCを導入する企業が増える中で、すでに20社が同社サービスの導入を決めているという。ブース説明員によると、同様の競合他社とLiquidのサービスとの違いは、利用者の生体情報をローカルで保存するのではなく、すべてクラウドにアップロードして一元管理する運用形態であること。異なる会社間であっても同一のプラットフォームに載っていることから、もちろん利用者の同意が前提になるが、将来的には別の企業が本人確認の際に使用した生体情報を、他社が本人確認に利用することも可能になるなどの活用が考えられるという。顔写真の使い回しなどによる企業横断での不正検知も提供する。
サインポスト × トッパン・フォームズ「ワンダーレジ」
筐体内に設置された識別台に品物を載せると、カメラで撮影した画像をAIにより一括認識し、商品点数と合計金額を自動で算出する「ワンダーレジ」。従来の製品は27キログラムある「重量級」だったが、持ち運びのしやすさなども考慮し、筐体に紙素材を採用して重量を5キログラムに抑えた新型(写真右)を出展した。
大日本印刷「ID真贋判定補助サービス」「カード即時発行サービス」
大日本印刷では、現在開発中の、運転免許証の真贋判定を補助するスマホアプリを紹介していた。グループ会社のDNPアイディーシステムが保有する偽造判定技術を用いて、スマホアプリで撮影した画像データから真贋判定を補助する。画像データをDNP柏データセンターに送信し、折り返し真贋スコアデータを受け取る仕組みで、ICチップの読み取りやPIN入力は不要。2020年春から「銀行口座開設用アプリ」と「本人認証・本人確認アプリ」のオプション機能として提供する予定で、今後は在留カードやマイナンバーカードへの対応も予定している。
同社のブース内には他にも、ICキャッシュカードを利用者がセルフ操作で即時発行できるKIOSK端末のデモが行われていた。今回新たに、4つの国際ブランド(Visa、Mastercard、JCB、American Express)が付帯するクレジットカードの即時発行にも対応した。
インフキュリオン・グループ「次世代金融プラットフォーム」
マイクロソフトの出展ブース内では、インフキュリオン・グループのコーナーを見つけた。マイクロソフトのクラウドサービスであるAzureを採用している縁もあって、このような出展形態になったそうだ。
同社が金融機関向けに提案していたのは「次世代金融プラットフォーム」。お店側にはマルチ決済端末「Anywhere」や決済を一元管理できる「Paydash」を用意する一方で、消費者にはウォレットのASPサービス(サービス名称は「Wallet Station」)として、モバイルアプリとバックエンドの管理サーバをホワイトラベルで提供。銀行口座をはじめ、後払い、プリペイド、ポイント、QR決済などを横断的に導入できるという。
NTTデータ「My Pallete」
日本のデビットカードサービス「J-Debit」を推進する日本電子決済推進機構が今年秋の開始を目指している、オールバンクのスマホ決済サービス「Bank Pay(バンクペイ)」。NTTデータが提供する金融機関向けモバイルバンキングのひな形アプリ「My Pallete」は今後、新たにBank Payに対応し、店舗決済が可能になることを告知していた。
My Palleteは現在までに国内の金融機関26行で採用されており、今年4月からは振込APIを活用した個人間送金の機能を追加したところ。同じモバイルアプリを使って、請求書支払い、個人間送金、店舗決済などを一元的にカバーできるようになるという。
凸版印刷「地域Pay」
凸版印刷では、地域活性化に貢献する全部入りの決済プラットフォームとして「地域Pay」を紹介していた。商店街の買い物ポイントをはじめ、地域通貨のようにエリア限定で利用できるマネーや、各種のデジタル商品券などが一括して取り扱えるようになるという。同社の提供する「サーバ管理型プリペイドASPサービス」をベースとして開発された。
今後、長野県岡谷市において、地域Payを活用したサービスの導入が予定されているという。
TIS「デジタルウォレットサービス」
「PAYCIERGE(ペイシェルジュ)」の名称でリテール決済ソリューションを提供するTIS。クレジット・デビット・プリペイドのプロセッシングサービスや、MaaSプラットフォームサービス、デジタルマネー給与プラットフォームなどに加えて、スマートフォンに各種決済カードの機能を搭載する「デジタルウォレットサービス」を紹介していた。
決済の業界団体であるEMV Coの推奨方式を採用し、PCI-DSS準拠のクラウドサーバで運用するセキュリティの高さをうたうほか、対応可能な決済方式の幅広さ(タッチ決済、コード決済、自社ポイント・マネーなど)が特長。年内には同社のデジタルウォレットを採用したサービスが登場する予定とのこと。
タレスグループ ジェムアルト「生体認証機能付きICカード」
タレスグループのジェムアルトは、カード券面に搭載された指紋センサーによりカード利用者の本人認証を行い、その結果がOKだった場合のみ決済カードとして機能する「生体認証機能付きICカード」を出展した。PINコード(暗証番号)の入力が不要となるため、レジでの処理時間短縮にも寄与する。同社では国際ブランドの認定を取得する来年以降、ヨーロッパなどから本格導入が始まると見ており、日本市場への導入についても積極的に提案していくという。
そのほかにも、手袋型、リストバンド型、グッズ型、アクセサリー型など、眺めているだけで楽しくなってくるようなウェアラブル型の非接触IC決済の実物を多数陳列していた。
BlackBerry「セキュアコンテナ型アプリケーション」
会場を一巡し、ひと通りの取材を終えたガジェット好きな筆者の目に突如、「BlackBerry(ブラックベリー)」の文字が飛び込んできた。「???」マークでいっぱいになった筆者を見かねて、担当者が説明してくれた。BlackBerryと言えば、かつてはNTTドコモを通じて日本でも販売されていたフルキーボードが特徴的なスマートフォン端末の元祖的存在だが、供給元だったカナダのBlackBerry社(旧社名はRIM)が2016年に端末事業から撤退。以降は同社から「BlackBerry」の名称をライセンス供与された中国・TCL集団がAndroid OSベースの端末を供給する形態となっている。
しかし、FIT展に出展していたのは紛れもない、元祖のほうのBlackBerry社。なんと、iOSやAndroid OSベースのスマートフォン上に、セキュアな業務アプリケーション群を束ねて提供する事業などを展開しているという。そして、かつてのBlackBerry端末で定評のあったセキュリティの高さや業務アプリの充実ぶりが、引き続き法人の業務利用ニーズにマッチし、特に金融機関からの引き合いが多いことから、FIT展に出展することになったのだそうだ。
「iPhone上で動くBlackBerry」というのはいささか奇妙な感じもするが、アプリになったBlackBerryでは、業務領域の暗号化や、遠隔でのアプリ制御はもちろんのこと、一定時間起動されないなどの条件で自動的にアプリが消滅する「時限式ワイプ」などの機能を装備。自前のスマホでのBYOD利用が可能になり、端末2台持ちを嫌う顧客からも喜ばれているとのことだ。
【編集履歴】2019年10月30日10:30にタレスグループ ジェムアルトの紹介箇所を一部、修正いたしました。