GMOあおぞらネット銀行が「DCJPY」を来夏商用発行へ、サービス第1弾は環境価値のデジタルアセットとデジタル通貨決済に

2020年11月に発足した「デジタル通貨フォーラム」が長らく仕様を検討し、2022年から2023年にかけてはさまざまな用途を想定した概念検証(PoC)に取り組んできたデジタル通貨「DCJPY(仮称)」。その商用サービスが、いよいよ来年の7月にスタートする見通しとなった。GMOあおぞらネット銀行が初のDCJPY発行銀行になる。

銀行業と電子決済等代行業を組み合わせたデジタル通貨「DCJPY」

 ディーカレットDCPとGMOあおぞらネット銀行、インターネットイニシアティブ(以下、「IIJ」という)の3社は10月12日、ディーカレットDCPが提供するブロックチェーンベースの「DCJPYネットワーク(二層構造デジタル通貨プラットフォーム)」を活用した商用サービスの第1弾を2024年7月に開始することで合意したと発表した(写真)

写真 写真左から、ディーカレットDCP 代表取締役社長の村林 聡氏、GMOあおぞらネット銀行 代表取締役会長の金子 岳人氏、インターネットイニシアティブ(IIJ) 常務執行役員の山井 美和氏

 GMOあおぞらネット銀行がデジタル通貨「DCJPY(仮称、以下同)」を発行し、IIJが同社の白井データセンターキャンパス(千葉県白井市)を利用する顧客向けに行う環境価値取引に対して、デジタル通貨で取引、決済できる機能を実装する予定。具体的な取引対象には「非化石証書」(再生可能エネルギー等により発電された非化石電力のうち環境価値の部分のみを証書化したもの)を想定してまずは代理調達を手掛けるという。「非化石証書に関しては制度上、二次利用や取引がまだ出来ないので、まずはデータセンター内でのボランタリークレジットの扱いで示せるのではないか。J-クレジット市場も立ち上がっている中、今後もそうした環境が整備されていくと思われるので、来年7月時点ではさまざまな電力調達手段や他市場に組み合わせていきたい(画面1)」(インターネットイニシアティブ・常務執行役員の山井 美和氏)

画面1 IIJの「電力需給マッチングプラットフォーム」開発構想

 DCJPYを本邦で初めて発行する予定のGMOあおぞらネット銀行では、デジタル通貨の発行・決済を、銀行API、銀行口座組込と並ぶ「BaaS事業」の一環としてとらえている(画面2)。「当行は5年前に開業し、スタートアップやネットビジネスを展開する法人を中心に顧客基盤を拡大している。BaaS事業における新しい事業領域として、デジタル通貨の発行と決済に取り組んでいきたい」(GMOあおぞらネット銀行 代表取締役会長の金子 岳人氏)

画面2 GMOあおぞらネット銀行のBaaS事業

 DCJPYを提供する構造は、銀行業と電子決済等代行業を組み合わせた方式になっているのが特徴だ。まずはGMOあおぞらネット銀行が銀行業の立場から、銀行預金に紐付ける形でDCJPYを発行する。そして発行後の資金移動については、電子決済等代行業のディーカレットDCPが担う役割分担となっている(画面3)
「(ディーカレットが代行するため)ビジネスゾーンを利用する企業側に電子決済等代行業のようなライセンスが不要なこともメリットだ」(ディーカレットDCP・専務執行役員の時田 一広氏)

画面3 ネットワーク上の資金の流れ(DCJPY)

 DCJPYは「デジタル通貨」と呼ばれることもあり、利用イメージの点では誤解もありそうだ。例えば○○ペイなどの呼称でサービスが多様化しているキャッシュレス決済の市場に対して、DCJPYはターゲットが異なるとの考え方だ。
「キャッシュレス決済はどちらかというとB2Cで、これは今後もどんどん進んでいくだろう。これにDCJPYで対抗することは考えていない。(DCJPYで狙うのは)その手前にあるB2Bや、価値の移転の事業に対するデジタル通貨の提供であって、その領域はこれまでも提供されてきていないと認識している」(ディーカレットDCP 代表取締役社長の村林 聡氏)
 サービス開始第1弾では、「非化石証書」などの環境価値取引から開始するDCJPYだが、今後は「環境価値以外の知的財産や、セキュリティトークン、メタバースのNFT、行政での利用なども次のターゲットになってくる」(村林氏)とのことだ。

ホワイトペーパーも公開、DCJPYの付加価値を示す「AMIC」とは?

 なお、同じ日にディーカレットDCPではデジタル通貨「DCJPY」の世界観や仕組みを理解するためのホワイトペーパーを公表。新たにDCJPYのコア要素として「AMIC(アミック)」なる概念を提唱した(画面4)

画面4 DCJPYのサービス全体構成図

 AMICとは、「Asset」「Money」「Id」「Contract」の頭文字をつなげて作られた造語で、それぞれがDCJPYの機能を示すコア要素になっているという。
 「Asset」は提供サービス内で活用できるデジタル資産やデジタルデータのことで、証書や取引記録情報などの価値をIDと紐付けることで管理・移転することができる機能を示している。「Money」は法定通貨の「円」と連動するデジタル通貨であることで、Moneyそのものに用途や契約条件を付与することができる機能。
 また、「Id」は民間銀行から発行され、MoneyとAssetの所有を示す識別子であること。取引参加者の身元を明らかにし、安心した取引が出来る機能になっている。最後の「Contract」はサービス内で活用できるMoneyとAssetの利用方法と取引条件を定義するプログラムで、用途や取引条件をプログラム化することで取引を自動化できる特長を持つという。
「『デジタル通貨のDCJPY』と紹介しただけでは、その付加価値が何なのかが伝わらない。それをより明確にするために、『AMIC』の概念を新たに盛り込んだ」(前出の時田氏)
 来年7月までの商用ローンチに向けて、すでに大きな課題はないそうだが、時田氏は「IIJやGMOあおぞらネット銀行さんとこれからの計画をしっかりと詰めて、テストと確認をした上でリリースしていきたい」と話した。

 

<参考リンク>
「DCJPYホワイトペーパー 2023」
https://amicsign.com/

 

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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