メルペイは9月18日、報道機関とパートナー事業者を招き、東京都内で事業戦略発表会「MERPAY CONFERENCE 2019_SEP.」を開催した。分割払いへの参入、不正利用対策でのコード決済事業者の垣根を超えた協業などなど、今回も多くの新発表が盛り込まれた。それらの内容自体は各社のニュースサイトに掲載されているので、ここでは勝手ながら筆者の極私的視点からそれぞれに注目度でランク付けを行い、順番に列記してコメントしていきたい。
第1位 ネット決済に50サイト超が導入決定、出品連携機能も(2020年初頭)
メルペイと言えば、コード決済や非接触IC決済「iD」に対応する「スマホ決済サービス」との印象が強い。必然的にリアル店舗(実店舗)での使用が連想されるが、実は、メルペイはインターネット通販(EC)でのネット決済にも対応している(写真1)。メルペイのアカウントに紐付くメルペイ残高やポイントがECサイトでの支払いにも利用できる。
盛り上がるスマホ決済サービスの裏で、ネット決済の導入企業は限られてきた。しかし、今回の事業戦略発表会で、ファッション領域を中心とした50サイトが新たにメルペイのネット決済を導入決定したことが明らかにされた(写真2)。
メルペイのネット決済が提供するのは、単なる決済機能だけではない。メルカリとの連携を売りにする考えで、具体的には、メルペイのネット決済で商品を購入すると、購入履歴を元にその商品をワンタップでメルカリに出品できる機能が導入される(写真3/2020年初頭)。メルカリを通じて商品が売却されていく際の二次流通データについても、加盟店の商品開発支援や販促支援などに提供していく計画だという。
同業のPayPayやLINE Payといった事業者が、将来の方向性として「何でもできる、生活に便利なスーパーアプリ」を目指しているのとは対象的に、メルペイはあくまでもメルカリを軸とした展開を志向する。その点についてメルペイ・代表取締役の青柳 直樹氏(写真4)は、メルペイが社是に掲げる『信用を創造して、なめらかな社会を創る』を引用した上で、「そう考えると、やはり一次流通と二次流通の連携によってやりたいメニューがたくさんある」と話し、メルペイの注力すべき分野を強調していた。
青柳社長の野心を実現するには、メルカリが得意とする二次流通に加えて、一次流通のチャネルやデータを抑える必然性が出てくる。したがって、メルペイの役割はリアル、ネットを問わず、一次流通の決済を押さえることで加盟店手数料を稼ぎつつ、そこで発生したデータを二次流通との間で相互に連携させて新しい事業に活用していこうとするものと考えられる。
ネット決済の導入を決めた50サイトのうち、ANAPやCROOZ SHOPLIST、ストライプインターナショナルなどではメルカリへの出品連携についても賛同しており、ファーストユーザーとなる見通しだ。
第2位 後払いに「分割払い」を追加(2020年初頭より開始予定)
メルペイが今年4月から開始している後払いの決済サービス「あと払い」に関して、2020年初頭を予定として分割払いを利用できるようにする(写真5)。提供にあたってメルペイは、「割賦販売法の(登録事業者として)ライセンス取得を進めている。必要となる信用情報機関との連携を行った上でサービスを提供していきたい」(青柳社長)としている。分割払い利用時の返済金利などは検討中とのこと。
分割払いは、メルカリ、メルペイの利用実績をもとに、後払いを数カ月や数回に分割して支払えるようにする。スマホアプリ上から、購入商品ごとの支払状況を管理できたり(写真6)、繰り上げ返済をするとポイントを付与するなどの施策も併用し、利用者の使い勝手を高める(動画)。また、あと払いで購入した商品をワンタップでメルカリに出品、売却できる機能も提供する(写真7)。これも「一次流通と二次流通の連携」強化の一環と言える。
動画 メルペイ 「メルペイあと払い」紹介動画【メルカリ公式】
発表会では、アルバイトをしながらミュージシャンを目指す若者がメルペイを使って夢に近づいていく動画も上映された。まだ手元にまとまったお金はないが、メルペイの分割払いを使って念願のサックスを購入、バイトの合間に練習を重ねつつ、分割で残金を支払いながら演奏の腕を上げ、最後は念願のステージで演奏するというサクセスストーリーだ。「お金が理由であきらめることをなくし、挑戦できる社会を作っていきたい」(メルペイ・執行役員CBOの山本 真人氏)
かくいう筆者もその昔、某楽器店のレジで信販会社のお世話になってエレクトリックギターを月賦で購入した世代だが、当時の筆者との最大の違いは、若者が最後にサックスをメルカリで売って、もっと高級なサックスに買い換えて人生を歩んでいくという終わり方である。努力して購入した商品であっても、自らのステップアップのためには躊躇なく乗り換えていく、こういう考え方とライフスタイルが今風なのだろう(どちらが良いか悪いかが論点ではなく、個人の価値観の違いや、好みの問題とも言える)。
発表会を通じて筆者が感じたのは、あと払いのサービス内容を説明する際に「支払いを先に延ばす」という基本的な機能ではなくて、「チャージレス(チャージ不要)」であることが前面に打ち出されていた点。ユーザーアンケートでも「使いたい時に残高不足で困らない」ことを評価する声が多いそうで、クレジットカードと同様の与信サービスでありながら、それとは一線を画したライトな使い方を促せているようだ。
「お財布の中身がいまいくら残っているのか目で確認できるのと、同じ感覚でお使いいただける。それに加えて買ったお店もわかる」(山本氏)
また、同社のあと払いにおける与信の考え方は、「『年収』『勤続年数』『職業』『住居』など既存の金融で用いられるものと異なる。こうした属性情報ではなくて、その方の行動実績に基づいて判断している。社会人歴の浅い若い方や、主婦など、勤続年数や収入では測れない方々に何らか別の方法で信用判断ができるのではないか」と山本氏は強調する。
そこで活用するのがメルカリ、メルペイの利用実績にまつわるデータだ(写真8)。「丁寧な取引」や「約束を守れる力」などを基礎情報に、AIなども活用して、メルペイの利用上限金額を決定する。メルカリではメルペイあと払いを始める2年前から、メルカリ内での支払いを先延ばしにできる「メルカリ月イチ払い」を提供してきたが、その利用者の99%が利用金額を支払い済みとの実績があることも、メルペイあと払いの自信につながっているようだ。
第3位 コード決済加盟店に5%キャッシュバック、来年6月末まで
メルペイは今年10月から始まる日本政府のキャッシュレス・消費者還元事業に決済事業者として登録されており、メルペイの利用者は対象の店舗で最大5%の還元を受けることができる。メルペイではこれに加えて、何と加盟店側にも還元を行うキャンペーンを打ち出した。
メルペイのコード決済加盟店が対象で、2020年3月31日までに申し込みを行った店舗を対象に、2019年10月1日から2020年6月30日までの9カ月間、通常1.5%の決済手数料を無料とし、決済金額の5%をキャッシュバックする(写真9)。すでにメルペイを導入済みのコード決済加盟店も対象となる。キャッシュバック上限は1店舗1カ月当たり3,000円までだが、メルペイからのキャッシュバック総計が10億円に達した時点で終了する。
本来、キャッシュレスを導入する店舗には加盟店手数料が課される宿命にあるが、最近のコード決済では期間限定ながら無料を打ち出すサービスが多かった。導入した加盟店へのキャッシュバックはこれまでも期間限定では行われてきたが、今回のような比較的長期に渡っての店舗への5%還元策は、コード決済事業者が究極の価格競争に一歩を踏み入れるものとして注目に値する。
第4位 加盟店アライアンス「MoPA」にKDDIが参加
MPM(店舗提示方式)方式のQRコードを共通に利用できるようにするための加盟店アライアンスが「MoPA(Mobile Payment Alliance)」。メルペイとLINE Payによって設立されたのは2019年3月のことで、その後同年6月にNTTドコモが加わった。今回新たにKDDIが参加したことで、MoPAは4社体制となった(写真10)。
KDDI・ライフデザイン事業本部 新規ビジネス推進本部 副本部長の中井 武志氏(写真11)は「au WALLETユーザー2,000万人のうち、サービス開始5カ月で500万人がau PAYに登録してくれた。これまで物理カード、Apple Pay、コード決済と展開してきたが、もう一段の加盟店の広がりが必要と考え、MoPAに加盟することにした」と話した。
店舗は「メルペイ」、「LINE Pay」、「d払い」、「au PAY」のいずれか1つのサービスが提供するQRコードを掲出すれば、4つのサービスが取り扱えるようになる。現時点ではそれぞれの加盟店契約は別々だが、「各社(サービス4社)への申し込みを一括で出来る仕組みの導入も予定している」(メルペイ・執行役員CPOの伊豫 健夫氏)という。
コード決済の共通化や共同での運用については、キャッシュレス推進協議会が策定した「JPQR」をはじめとして、共通プラットフォームの提供や、コード決済事業者間の個別による提携の動きが表面化している。MoPAもそうした流れの一環とも言えるが、いずれの取り組みにおいても、1つのQRコードを複数のサービスで共通に利用できることをいかにわかりやすく表現するかであったり、設置店舗との契約から精算までを一括で取りまとめる仕組みなどの補完策が求められている。
実際にMoPAの運用はどのように進んでいくのか。筆者としてはまず、MoPAに対応する加盟店を見つけるところから始めてみたいと思った。
第5位 メルペイ利用者は400万人、対応加盟店は170万カ所に
発表会当日時点でのメルペイの決済対応加盟店は「170万カ所」。内訳は非接触IC決済の「iD」に対応する90万カ所と、コード決済に対応する80万カ所で、これらの数字には導入予定が含まれている。2月のサービス開始時点ではiDのみに対応するという「変化球」を投じ、いきなりサービス開始初日から90万カ所の対応加盟店をうたったメルペイだが、その数字にはその後も変化がないことから、170万カ所の達成は、以降の7カ月間、同社がコード決済の対応加盟店を地道に積み上げてきたことの成果と言える。
今年3月末からメルペイがコード決済の提供を始めた時点で、アナウンスされていたコード決済の対応店舗は45万カ所。そこから約5カ月で35万カ所を上乗せした計算だ。ただ、メルペイの代表的な加盟店とも言えるコンビニエンスストアやドラッグストアなどの業態ではiDとコード決済の両方に対応している店舗も多く、80万カ所にはダブルカウントが含まれる点には注意が必要だ。ちなみに同業のPayPayの場合、サービス開始から7カ月後時点での加盟店数は50万店。「カ所」と「店」とでは単位が異なるため単純に比較できないが、両社の加盟店営業にかける勢いを示す参考値にはなる。
なお、メルペイの利用者数は2019年9月時点で400万人を突破(写真12)。メルペイに口座連携が可能な金融機関数は100となった。
「今後もさまざまな利用者向けキャンペーンを予定しており、年内には600万人、来年には1,000万人を超えると見込んでいる。決済回数、決済総額ともに順調に成長しており、将来の収益化に手応えを感じている」(青柳社長)
第6位 スマホ決済の不正利用対策強化に向けた連携
昨今、コード決済の不正利用被害が相次いでいることを受けて、メルペイでは個社の取り組みに加えて、業界全体として不正利用を強化する。具体的には、PayPay、LINE Payの2社と共同して、「キャッシュレス推進協議会等における不正対策の検討に貢献」することと、「不正対策に関する事業者間の情報共有」を実施していくという。3社はそれぞれ個社としても、24時間365日のモニタリングや相談窓口の設置、不正検知による未然防止などを強化してきているが、個社の垣根を超えて情報共有に取り組む。
コード決済の競合3社がこうして肩を並べること自体、珍しい風景ではあるが(写真13)、不正利用被害の撲滅はコード決済業界全体で一致した悲願と思われるので、より多くのコード決済事業者が参画できるような輪の広がりに期待したい。
第7位 デジタルマネーによる給与支払いに照準
基本的にプリペイド方式の残高を用いて決済するメルペイでは、残高への入金(チャージ)チャネルを「キャッシュイン」、残高で支払いが可能な先を「キャッシュアウト」と定義して、両方の拡充に務めている。
キャッシュイン(入金)の拡充では、給与払いの実情について言及した。前出の伊豫氏(執行役員CPO)は「日本では給与の入金先が銀行に限られており、現在デジタルマネーによる支払いについて各方面で議論がされているところだ」として、これらの給与や報酬には当事者が確実に受け取ることができ、利用できる仕組みと体制が必要だと説いた。その上で伊豫氏は、「銀行は中長期的な支払い用途のために存続する一方で、日常の支払いにはデジタルマネーの利用が増えていくだろう」と予見した(写真14)。
同日の発表会では、給与のデジタルマネーによる支払いは法改正が必要な問題でもあることから現状ではメルペイでも提供できないが、それに先行して、報酬・インセンティブなどのデジタル支払いについて、クラウドワークス、ビザスク、ランサーズの3社と提携して検討を始めたことが明らかにされた。今後、3社の各サービスを通じて得た報酬やインセンティブなど給与以外の収入を、メルペイ残高に直接チャージできるようになる予定だ。
キャッシュアウト(出金)の拡充では、先述したMoPAの取り組みのほかに公共系で2件の新対応を発表した。1つは、トラストバンクが提供するふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」からのメルペイ残高を使ったふるさと納税で、今年11月の対応を予定する。もう1つは、メルカリ上で不用品を販売した売上を自治体に寄付できるようにするもので、対応時期や提供スキームの詳細は未定とした。