カード要らず・生体認証だけで「手ぶら決済」を実現、CEATEC会場にキャッシュレスの次なるトレンドを見る 〜 CEATEC JAPAN 2018レポート

10月16日〜19日まで千葉市の幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2018(シーテック ジャパン 2018)」。認証や決済に関する展示では「手ぶら決済」が流行っていた。ローソンの「通り抜け決済」、MUFGの「IoT決済」などなど、今年も未来的な提案に彩られたCEATEC会場を見学した。

■ メーカー展示だけでなく、決済事業者によるサービス提案も

 今年のCEATEC会場、キャッシュレスに関連する出展の中では「手ぶら決済」への注目度が高く、複数のブースで製品やサービスが披露されていた。
 富士通の提案する手ぶら決済は、手のひらの静脈認証と、カメラによる顔認証を組み合わせる(生体認証融合技術)ことで決済を完了できる仕組み。

▲タブレットのカメラで顔認証を行った上で、手のひらを静脈認証装置の上に乗せて認証する。認証が完了すると決済が完了する(富士通)

 顔認証システムを多方面へ導入しているNEC(日本電気)では、既存のタブレットのカメラ機能を使った「顔認証を活用した決済サービス」を提案していた。クラウドに保存された顔情報だけを認証に用いるため、スマートフォンも決済カードも不要で、手ぶらで決済が完了できる利便性をアピールしていた。

▲NECは顔認証だけで手ぶら決済を完了するデモを展示。タブレットへカメラを外付けしている理由は、内蔵カメラと比べて認証の精度を上げるためとのこと

 富士通やNECといったメーカーではなく、さらに決済手段まで含めた手ぶら決済の提案も、いくつかの決済事業者から紹介されていた。
 三井住友フィナンシャルグループのブース内では、NCore(エヌコア)社による顔認証決済ソリューションが掲示された。同社には三井住友銀行が51%、NECおよびNECの関連会社が49%を出資。2016〜2017年にかけて三井住友銀行と三井住友カードの社員食堂で実証実験された顔認証システムを提供した。顔認証により、カードを提示することなくクレジットカード決済が可能になるメリットを掲げ、ホテルや小売店、病院などに向けて提案をスタートさせているそうだ。

▲三井住友銀行が51%を出資するNCore社。顔認証とクレジットカード決済を紐付けることで手ぶら決済を実現

 イオンフィナンシャルサービスでは、生体認証を応用したシステムとして、Liquid社の指紋+静脈認証を使ったイオン銀行ATMでの銀行取引サービスと、富士通の手のひら静脈技術を用いたカードレス決済の実証実験を紹介していた。カードレス決済は今年9月から、ミニストップの一部店舗にて従業員を対象に実験を行っているところとのこと。

▲手のひら静脈技術によるカードレス決済の実証実験は現在、一部のミニストップ店舗で実施中(イオンフィナンシャルサービス)

 純粋な決済事業者ではないが、決済事業も手掛ける通信キャリアのKDDI(au)でも、生体認証技術を応用した手ぶら決済のデモを紹介した。生体認証はスマートフォンやタブレットのカメラ機能を用いて、あらかじめ登録されている利用者の「手のひら」を個別認識し、生体情報から暗号鍵を生成して管理サーバと照合する仕組み。KDDI総合研究所と日立製作所の技術を組み合わせた。手のひら情報の事前登録を含め生体認証に専用端末を用いない点を、他社サービスとの違いとして売りにしていた。

▲タブレット内蔵のカメラに向かって、手のひらを撮影するようにかざすと認証が完了する。認証に要する時間は秒速で、まったく気にならなかった

▲手のひらで本人認証を行った後、画面タッチで本人確認を行うと決済が完了する

■ ローソンの通り抜け決済に黒山の人だかり

 ローソンのブースには、「ウォークスルー決済」を何としても体験してみたい利用者が長い行列を作っていた。
 「ウォークスルー決済」とは、ローソンに入店したら、商品を選んで買い物バッグに入れながら進んでいくだけで、会計時にも立ち止まることなく通り抜けできるサービス。今回のデモでは、ICタグ(RFID)とスマホの決済アプリを組み合わせることでこれを実現していた。
 デモの店内にはICタグの貼付された実際の商品が陳列され、実際に自分のクレジットカードによる支払いが体験できるようになっていた(支払いはせずに模擬体験だけの参加も可能だった)。参加者はCEATEC期間中のみ配信された「ローソンCEATECアプリ」(写真)か、「楽天ペイアプリ」を自身のスマートフォンにあらかじめインストールしておき、支払いに使用したいクレジットカード情報を登録しておく。
 店内に入ったら購入したい商品を選んで渡された買い物バッグに収めていく。商品選びが終わったら、先ほどのスマホアプリを起動し、退場ゲート近くにあるタッチポイントにQRコードを提示する。
 その後、同じく退場口付近に設置されたセンサーゲートの脇に、買い物バッグを通過させる要領で進んでいけば、購入代金の精算と支払いが自動で完了する流れになっていた。また、アプリの購入履歴にはレシートが配信された。

▲ご覧の通り、おそらくはCEATEC会場で最も行列が長かったブース。それがローソンの「ウォークスルー決済」体験ゾーン

「決済×ローソン」。フォントがどことなくエヴァっぽい

▲参加者はCEATEC専用のローソンアプリか楽天ペイアプリをスマホにインストールする必要があった

退場口の手前にあるタッチポイントでQRコードを提示し・・・

円形のゲートの脇に買い物バッグを通過させると、支払いが完了する

▲商品にICタグを貼り付けるロボット。ICタグが商品から少しはみ出すように貼り付けるのがコツのようだ

▲AIを搭載したバーチャル店員さん

■ MUFGコインが「coin」にリニューアル

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のブースには、昨年の初出展時に大いに話題を呼んだブロックチェーン技術ベースのデジタル通貨「MUFGコイン」が、「coin(コイン)」とブランド変更して紹介されていた。coinの「i」の文字の上の●こそ、かつての名残りからか赤色に染まっていたが、全体基調としては白地に黒文字という抑えたトーンに変化していた。あえて「三菱色」を封印し、サービス名を一般名詞化した背景は、他の銀行グループへの採用の広がりを意識したものだろうか。
 昨年はcoinのスマートフォンでの利用方法を中心に紹介していたが、今年はcoinの特性を生かしたさまざまな使い方にフォーカスを当てていた。「リアルタイム悩み解決サービス」「前金予約・ドタキャン防止サービス」「『時差通勤』でお金が貯まる」など5つの提案とデモが並んだが、これらはMUFGが今年実施したビジネスアイディアコンテストの受賞作品だという。
 その中には、学生の奨学金に目を付けたデモも。学生がもらった奨学金を不用意に浪費してしまわないように、その使途を限定しながら、学生自身の啓蒙やスキルアップに活用しやすいサービスプラットフォームの提案もあった。ブロックチェーンベースであるcoinの「スマートコントラクト」を有効活用した事例といえる。

▲白色を基調としたシンプルなデザインになった「MUFGコイン」改め「coin」

▲「coin」の活用事例

▲coinによる奨学金支給(例)では使用用途が学術目的に限定されるだけでなく、学生が奨学金を何の学習に使用したかなどの情報も出資企業に共有される。それらの情報を参照して、企業が学生に採用オファーを出すことも可能だ

 また同ブースでは「IoT決済」についても、流行り言葉が先行しがちなサービス名に対して、具体的な利用場面をイメージさせてくれるデモを紹介していた。照明や洗濯機といったデジタル制御が可能な機器(いわゆるIoT機器)に、それぞれ固有のQRコードを貼付しておく。これをスマホアプリのカメラ機能を使ってスキャンすると、IoT機器とスマートフォンが同期。その後、利用した時間数や利用量に応じてリアルタイムに課金を行うことができる。決済にはもちろん、coinが利用できるというものだ。
 QRコードシールが目立っているが、実はIoT機器にはそれぞれ特殊なBluetoothモジュールが内蔵されているという。QRコードでは最初の接続だけを行い、以降はBluetoothを用いてスマートフォンとつながる仕組み。米・Afero社のセキュアIoTプラットフォームを採用して実現した。

▲MUFGによるIoT決済の提案。洗濯機の使用時間に応じてスマホ上のcoinへリアルタイムに課金できる

 CEATEC会場内には他にも、決済に関連する商品やサービスの展示があった。キャッシュレスのトレンドはここ、CEATECの会場にも色濃く反映されていたといえる。

▲シャープの呼び出しベル払い出し機能付きセルフ注文機。注文が完了すると食券ではなく、「呼び出しベル」がゴトンと出てくる

▲QRコード決済事業者のOrigamiブースでは、決済を体験できるデモや、QRコードをスマホからスキャンすることでクーポンを配信するなど、訪れた来場者にOrigamiを一度使ってもらおうとする仕掛けに溢れていた。凝った「折紙(おりがみ)駅」の電光看板も

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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