中国・地方都市のパパママストア10万店舗にクラウドPOSを無償提供へ、ネスレ、ユニ・チャームも採用したアリババB2Bプラットフォーム「LST」の凄み

アリババは2月21日、日本の消費財メーカーを対象に、東京都内でアリババLSTに関するセミナーを開催した。200名ほどが参加した。オンラインショッピングサイトの「Tmall」、直営の新型スーパーマーケット「フーマー・フレッシュ(盒馬鮮生)」、モバイル決済の「Alipay(アリペイ)」など、小売周辺のさまざまなカテゴリでデジタル化に挑戦するアリババ。パパママストアの仕入れと流通を強力に支援するプラットフォーム「LST」に、中国への販路拡大を狙う日本の有名企業たちも、熱い視線を送っている。

中国・地方都市のパパママストア130万店舗が採用

 アリババが掲げる「ニューリテール戦略」の下、2017年から提供開始した「LST(零售通:Ling Shou Tong)」は、中国・地方都市の伝統的小売店とメーカーの間をつなぐB2Bプラットフォーム。セミナー開催にあわせて来日したアリババグループ LSTプレジデントのKevin Lin氏(写真1)は「LSTをひと言でいえば、『B2BのTmall(天猫)』」と表現する。Tmallはアリババグループの運営するBtoC向けオンラインショッピングサイトだが、そのBtoB版として、店舗の仕入れと物流を支援する仕組みだ。

写真1 アリババグループ LSTプレジデントのKevin Lin氏

 アリババの日本法人で代表取締役社長CEOを務める香山 誠 氏(写真2)は「本日、世界で初めてのLSTセミナーを日本で開催できたことを嬉しく思う。中国の地方都市にあるパパママストア(家族経営の小規模店舗)は約600万店あるが、そのうちLSTの採用店舗は、2018年夏までに100万店舗を突破し、今年直近ではさらに30万店舗上乗せの130万店舗に上る」とセミナー冒頭に中国国内でのLSTの広がりを紹介した。

写真2 アリババ 代表取締役社長CEOの香山 誠 氏

クラウドPOSとアリペイ、Eコマースをつなぎ消費活性化

 続いて登壇したKevin Lin氏は、ニューリテールによって変化を迎えた中国のFMCG(日用消費財)市場の動向を解説。成長を続ける同市場は、2018年の実績で対前年比14%増の成長率を記録した。他方で、中国の消費者行動は、加速するデジタル化によって多様化が進んでいる。例えば、成長の40%は新商品が支えており、「デリバリー」、「自販機」、「無人店舗」といった新しいセグメントの成長が続く。そして、消費者の支払手段は、アリペイに代表されるモバイル決済に移行し、いまやオフライン決済の実に54%がモバイル決済によって行われている(写真3)。「私も杭州に3年ほど居たが、町では誰もがノーキャッシュだった。財布は持たず、スマートフォンを持ち歩くだけで生活ができる」(Lin氏)

写真3

 日本の事情を顧みると、かつて町に存在した多くのパパママストアは、コンビニエンスストアに転換した。中国の伝統的小売店でも、デリバリーに対応したり、POSを導入したり、家族以外の従業員を雇用したりと、ほぼ同様の変化が起き始めている(写真4)

写真4

 そして、店舗仕入れには「eRTM」と呼ばれるBtoBの流通プラットフォームが急成長中。競争も激化しており、2018年中には39のプラットフォームがサービスを停止した(写真5)。この結果、アリババLSTのようなプレーヤーの寡占状態が増えてきているそうだ。「取扱金額は200億元以上、130万店舗以上のストアが参加しており、B2BのFMCG流通プラットフォームではNo.1を自負している」(Lin氏)。

写真5

 Tmallやフーマーなど、従来の小売をそれぞれ新しい手法によりデジタル化してきたアリババだが、近代的小売であるコンビニと伝統的小売であるパパママストアについては、LSTの導入を通じて「ニューリテール戦略」を推進する構え(写真6)。実にこの2つの区分で小売業全体の売上の70%以上を占めるという。Lin氏はこの流通プラットフォームであるLSTに日本の消費財メーカーが参加することで、中国への販売チャネルを大幅に強化できることを訴えた。「LSTには3つの重要なカスタマーバリューがある。1つは流通の効率化、1つは高精度マーケティング、そしてもう1つがオムニチャネルデータの収集と活用だ(写真7)」(Lin氏)

写真6

写真7

 流通面では店舗の需要予測に基づくインテリジェントサプライチェーンを標榜。地域レベルの倉庫5つと、都市レベルの倉庫30を通じて物流を担っている。各拠点は300Km以内に置かれ、注文から即時に出荷できるようにしている。インターネットを活用していない地方都市では、コカ・コーラといった現地の企業パートナーで対応し、確実な配送体制を敷いている(写真8)

写真8

 さらに今年以降は、クラウドPOSを10万店舗に無償設置していく計画で、アリペイなどアリババの持つエコシステムとそれらを接続することで消費の活性化を目指すという(写真9、写真10)

写真9

写真10

 

ネスレ、ユニ・チャーム、ライオン、伊藤園がLSTの導入効果と期待を語る

 セミナーの後半ではLSTを採用している日本の有名消費財メーカー4社(ネスレ、ユニ・チャーム、ライオン、伊藤園)から事例紹介が行われた。

●ネスレ

写真11 ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO 高岡浩三 氏「(パパママストアの店頭に)ネスカフェのバリスタマシンを置いてもらい、1杯100円、200円で提供できれば、家の外でもコーヒーをお飲みいただける。キットカットのミニを1枚20円、30円で置ければ衝動買いを誘える。いつでも、どこでも、どんな形でも、中国のお客様に商品を届けたい。それを実現出来るのがLSTだ」

写真12 ネスレ日本の高岡社長は「POSデータは、日本では小売からメーカーに開示してもらえないが、LSTではデータをシェアしていただけるありがたみを強く感じている」とも

●ユニ・チャーム

写真13 ユニ・チャーム 代表取締役 社長執行役員 高原豪久 氏

写真14 「中国でユニ・チャームの商品が売れる、というと『日本製の紙おむつ』の需要をイメージされる方が多いが、実は中国では女性用生理用品の売上が大きい。われわれはLSTが始まった当初の2016年8月から始めて、2017年5月に取引を開始したが、すぐに成果が出た。データを活用することで、生理用品専用の販売棚を作ったり、専用アプリを立ち上げたりといった効果もある。われわれは、今度の進化は『ココロ』の進化ではないかと考えており、これから人の心がどう変わっていくのかをアリババさんとともに探求していきたい」(ユニ・チャームの高原社長)

●ライオン

写真15 ライオン 代表取締役 社長執行役員 最高執行責任者 掬川 正純 氏

写真16 「オーラルケアの市場規模は右肩上がりだが、1人あたりの年間支出額は5,511円と、北欧のようなオーラルケア先進国と比べればまだ3分2くらいであり、市場拡大の余地がある。アジア各国にも広めていきたい。高齢化が進んでいる中国市場だが、『口腔疾患罹患率(91%)』と『自己意識(36%)』のギャップは55%もあり、大きなチャンスがある。中国はいま、2025年までのオーラルヘルスケアに国を挙げて取り組んでいるところだが、改善にぜひ貢献していきたい」(ライオンの掬川社長)

●伊藤園

写真17 伊藤園 代表取締役副社長 本庄 周介 氏

写真18 「アリババとは元々Tmallでお付き合いがあったが、アリババジャパンの香山社長と出会って、アリペイを伊藤園の自販機で使えるようにした。これが昨年11月のこと。中国のお茶のマーケットはすでに日本市場の1.5倍にも達している。現在は一級都市だけで販売しているが、二級、三級都市へも拡大していきたい」(伊藤園の本庄副社長)

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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