SMSを拡張した「+メッセージ」の機能が拡充、企業の公式アカウントや金融機関手続きの一括化も

電子決済マガジンの読者の中で、自身のスマホに「+メッセージ(プラスメッセージ)」をインストールして使っているという方はどのくらいいるだろうか? 昨年5月にNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの携帯3キャリアがサービスを開始した、相手の携帯電話番号に宛てるだけでメッセージや写真、動画などのデータがやり取りできる言わば「SMSの拡張版」だ。LINEのようなメッセージアプリの台頭に危機感を覚えた携帯3キャリアが揃って始めたこのサービス。開始から1年を経て、個人と企業とを結ぶ新しい機能の拡充が行われることになった。携帯3キャリアとパートナー企業6社が4月23日に東京都内で記者説明会を開催した。

携帯電話番号を使うことで「確実に本人へ届ける」

 「+メッセージ」の利用者数は、開始直後の2018年6月に200万人だったものが、今年4月時点で800万人に達した。スマートフォンで使用できる「+メッセージ」は、テキストのみの送受信が可能で文字数に制約のあるSMS(ショート・メッセージ・サービス)とは違って、文字数に制約がないほか、写真や動画などのファイルが送受信できる。利用時の料金体系は、SMSが1件当たり数円〜数十円の固定なのに対して、「+メッセージ」は発生したパケット通信に応じた通信料が課金される。WiFi環境でも利用できるが、本日時点では携帯3キャリアのみがサービスに対応しており、3社のサブブランドやMVNOなどでは利用できない。
 このサービス、決して日本独自のものではなく、携帯電話事業者の世界的な業界団体であるGSM協会(GSMA)が定めた標準規格の「RCS(Rich Communication Services)」に準拠している。LINEのようなメッセージアプリの台頭は、世界の携帯電話事業者にとって共通の悩みの種であり、その1つの切り札として用意されたのがこの「RCS」といえる。
 「+メッセージ」の最大の売りは、何といっても携帯電話番号に紐付いていることだろう(写真1)。「このSIMというのがなかなか出来たもので、この上でアプリケーションが動かせる小っちゃなコンピュータになっている。ここに書き込まれた電話番号は高いセキュリティ耐性を持つ。つまり、ケータイ番号は利用者である『あなた』そのものといえる」(KDDI・取締役執行役員専務 商品・CS統括本部長の東海林 崇氏/写真2

写真1 SIMカードの特長を生かした「+メッセージ」

写真2 KDDI 取締役執行役員専務 商品・CS統括本部長 東海林 崇(しょうじ・たかし)氏

 個人を特定し、確実にメッセージを送信できる強み。契約時に行われる本人確認を経て発行されるSIMカードを搭載する携帯電話ならではの「安心・安全」を前面に押し出してきた。そこに、今回の機能拡充により、さらに特長が追加される。KDDI(au)は今年5月以降に、NTTドコモとソフトバンクは今年8月以降の提供開始を予定する。
「SMSは携帯電話の根幹になる機能であり、『+メッセージ』はSMSの延長上のサービスだ。今でも皆さんの手元に、企業から申し込み手続きに必要な暗証コードや、銀行からの入金通知であったり、レストランの予約通知などが届いているのではないか。ここに企業の『公式アカウント』を利用可能にすることで、機能を拡充していく」(ソフトバンク・テクノロジーユニット モバイル技術統括 IoT技術企画部 本部長の丹波 廣寅氏/写真3

写真3 ソフトバンク テクノロジーユニット モバイル技術統括 IoT技術企画部 本部長 丹波 廣寅(たんば・ひろのぶ)氏

 企業は、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクのいずれかのキャリアに申請すれば、所定の審査と認証を経て、公式アカウントが開設される。公式アカウントのアイコンの脇には認証済みマークも表示される(写真4)。公式アカウントの開設費用や利用料金は、追って5月のサービス開始時に案内される予定だが、基本的に企業と携帯電話事業者の間での個別契約になる。

写真4 「公式アカウント」のイメージ

共通手続きの相乗り検討でJCB、MUFGなど金融機関5社が合意

 説明会では、企業の公式アカウントによる「+メッセージ」の利用例として、銀行からのお知らせの配信(写真5)、レストランの予約(写真6)、携帯電話会社への問い合わせ(写真7)、の3つが紹介された。いずれもチャットボットのようなイメージで、企業と個人でのメッセージのやり取りを行うイメージだ。特に携帯電話会社への問い合わせでは、問い合わせ者の携帯電話番号が認識できるため、契約内容などを特定した上で各種の申し込みや相談に対応できるメリットがあるという。

写真5 利用イメージ①:銀行からのお知らせの配信

写真6 利用イメージ②:レストランの予約

写真7 利用イメージ③:携帯電話会社への問い合わせ

 個人が企業の公式アカウントを登録する方法は、公式アカウントを集めたポータル画面からの検索、企業のWebサイト、QRコードなどが用意される(写真8)。記者説明会場の説明員によると、「(現在のSMSの企業利用と同様に)企業のWebサイトなどで個人が最初に電話番号を入力する際に、併せて、以降に『+メッセージ』で企業から案内を発信することについて『承諾(パーミッション)』をもらう形態が考えられる」という。
 説明会では、「+メッセージ」の企業と個人をつなぐ使い方だけでなく、複数の企業と個人を横断的に結ぶ「共通手続きプラットフォーム」(写真9・10)の構想も紹介された。例えば、個人が引っ越しをした場合。自身が利用しているさまざまな企業や団体に対して、それぞれ1件ずつ住所変更手続きを行う必要がある。この手続きを「+メッセージ」と連携させることで、一度の操作で、複数の企業や団体への住所変更手続きを完結できるようにしようというのが「共通手続きプラットフォーム」の目指す姿だ。住所変更のほか、災害時のサポートや口座振替の申込などへの応用が想定されている。

写真8 利用者はアプリのアップデートかダウンロードすると新機能が利用可能になる

写真9 複数の企業への変更手続きを1回の操作で完了できるイメージを想定

写真10 「+メッセージ」の「共通手続きプラットフォーム」により手続きを一括化する

 記者説明会には、この構想に合意した金融機関ーークレジットカード(ジェーシービー/写真11)、損害保険(東京海上日動火災保険)、生命保険(日本生命保険)、証券(野村證券)、銀行(三菱UFJ銀行/写真12)ーーの5社が出席した。各社は業務や事務を共通化することで、お客の利便性向上を目指す(写真13)。また、プラットフォームの構築、管理、運用、運営はトッパン・フォームズが担当。「2019年内、もしくは2019年度中のサービス開始を目指したい」(トッパン・フォームズ 代表取締役社長の坂田 甲一氏/写真14)という。
「最も高いセキュリティ基準の求められる金融機関から検討を開始することになった。このことからも、『+メッセージ』の安全性の高さを感じてもらえるのではないか。安心・安全・便利なサービスを提供していきたい」(NTTドコモ・取締役常務執行役員 スマートライフビジネス本部長の森 健一氏/写真15

    今回の発表会では「+メッセージ」を送金や決済、そのための認証用途などへ応用する可能性について具体的な話はなかったが、関係者からは「相性の良い」領域であると認識しているコメントも聞かれたので、今後の連携動向に注目しておきたいところだ。

写真11 ジェーシービー イノベーション統括部長 久保寺 晋也(くぼでら・しんや)氏「カード会社には利用代金明細書に代表される紙やアナログのものが多く、最近はデジタルに移行しているものの、十分ではない。その意味で『+メッセージ』は新たなデジタル接点として大いに期待している。また、共通プラットフォームは、例えば住所変更のようなことを共通のプラットフォームの上で簡単に手続きできる。複数社にまたがる手続きが簡単にできるなら、お客さまのストレスを軽減できるし、カード会社としてもさまざまな送達物を、より迅速に確実にお送りすることができる」

写真12 三菱UFJ銀行 取締役常務執行役員 林 尚見(はやし・なおみ)氏「今回、日本を代表するメガ3キャリアが作られたプラットフォームの上で、われわれが長年お客さまに負担をかけていたさまざまな事務手続きの負荷を軽減、取り払うことのできるチャンスに恵まれたことを大変ありがたく思う。銀行の店頭における事務の手続きは、お客さまにかける負荷が重い実態がある。米国では、支店で事務手続きすることは『歯医者に行くよりもひどいこと』。痛みを伴う、時間的苦痛を伴うという例え話があるくらいだが、こうしたことを一刻も早く解消し、お客さまに優れたUI/UXをご提供申し上げることを進めていきたい」

写真13 「共通手続きプラットフォーム」の体制

写真14 トッパン・フォームズ 代表取締役社長 坂田 甲一(さかた・こういち)氏「当社は長年にわたり、金融機関様をはじめとする各企業様、団体様の各種通知物について、製造、発行、発送の業務を受託してきた。紙の印刷物を通じてB2Cのメッセージ・コミュニケーションのお手伝いをしてきたといえる。その立場から、『+メッセージ』の有効利用についてさまざまに思いを巡らし、議論を深めてきたところだ。共通手続きプラットフォームについて、その構築、管理、運用、運営を通じて、お客さまと金融機関さまの間の安心・安全・便利な双方向コミュニケーションの確立に向け、これを下支えしていきたい」

写真15 NTTドコモ 取締役常務執行役員 スマートライフビジネス本部長 森 健一氏

 

 

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多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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