「Faceレス」の意味、わかりますか? 〜 インドがキャッシュレス化計画で掲げた言葉の深い意図

「OMO」「DLT」などなど、毎日のように新しい言葉が生まれては消えていくIT業界。それと地続きの電子決済業界でも新しい言葉に出会うことは珍しくないが、「明らかに意味がわかるのに、意味がわからない」言葉に出会う機会はそんなに多くない。筆者が出会った「Faceレス」について、言葉の意味を探る旅に出てみよう。

先日、筆者の周辺で「Faceless(フェイスレス)」という英単語が話題になった。この言葉を目にしたのは、インド政府が進めるキャッシュレス化について情報収集していた際に、まさに最初に訪れるべきホームページにデカデカとこの言葉が宣言されていたためだ。

Cashless India
http://cashlessindia.gov.in/

(出典:CASHLESS INDIAのWebサイト)

 「キャッシュレス・インディア(Cashless India)」とはさしづめ、「インド キャッシュレス化計画」とでも訳せようか(この言葉を目にして『日本印度化計画』を思い出すのは筆者世代限定だろうか)。現在の日本の推進状況と同じく、政府の主導により、現金をなくすことでもっと暮らしやすい社会をつくっていこうとのスローガンに読める。

 そのキャッチフレーズとして、以下の文章が掲げられている。

“Faceless, Paperless, Cashless” is one of professed role of Digital India.

 「ペーパーレス」、「キャッシュレス」まではよい。カタカナで通じるくらいの、もはや日本語と言っても過言のないほどなじみの深い単語だ。しかし、問題は冒頭に来ている「Faceless(フェイスレス)」だ。

 「顔がない」?
 「匿名」?
 「のっぺらぼう」?
 「顔不要」?

 いやいや、インドといえば国民全員参加の生体認証を併用する番号制度「アドハー(Aadhaar)」の利用が進んでいる国。指紋や、眼の虹彩に加えて、「顔」も生体情報の1つとして、むしろ積極的に使われているところだ。なのに、「顔なし」とは。いったいどういう意味なんだろうか。そして、それがキャッシュレスとどのように関係するのだろうか。

 英語の辞書をいくら引いてみても、「顔なし」を由来とする意味しか出てこない。これはインド在住の方に直接聞いてみるしかないか、しかし、暮らしているからといって意味がわかるものだろうか、、
 などと優柔不断に逡巡していると、筆者の友人でもあるカード・ウェーブ誌の編集長がネットで貴重な情報を見つけてきてくれた。

The Economic Times : Narendra Modi: Faceless assessment: Finally, Modi is taking the taxman out of tax

 紹介されたのはインドの経済ニュースサイト「The Economic Times」。凄いぞ、編集長の検索能力!
 ここでモディ首相が語っているストーリーを読んでいくと、「decrease human interface(人の介在を減らす)」という表現に行き着く。インド政府が税金を徴収する場面では、税務職員など人出が介在することに起因する金銭供出の強要(袖の下)や不正着服といった問題があり、これを撲滅するために人間の介在を減らして、手続きを電子化していこうという決意。これを「Faceless」と表現しているらしい。要するに「Face to Face(対面)」をなくそうってことだったのかと思わず膝を打ってしまった。

 いま世界各国でキャッシュレス化が進んでいるが、現金からキャッシュレスに移行する理由は国によって少しづつ違いがある。この日本でも、人間がお釣り銭の数え間違いをしないようにと釣り銭出金を自動化したPOSレジの導入が進んでいるが、インドの場合はもっと極端に「金銭の授受に人間を介在させない」という強い意志が表れているように思う。だからこそ、「インド キャッシュレス化計画」のキャッチフレーズの一番最初に「Faceless」が置かれたのだろう。

 こういう発見ができるのも、キャッシュレス推進の意外な効用ではないだろうか。

 

なお、上記の見立てはあくまで筆者たちの推測に過ぎず、「Faceless」とはそういう意味ではない! という別の見解をお持ちの読者がおられたら、ぜひ電子決済マガジンまで情報提供を頂きたい。

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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