参加20行が送金手数料0円でスタート、スマホで手軽に「ことら送金」は広がるか

個人間での10万円以内の銀行振込が手数料無料、もしくは安価な手数料で利用できる「ことら送金」が10月11日に始まった。参加する金融機関は、みずほ、三菱UFJ、三井住友のメガバンク3行をはじめ20行からのスタートとなり、対応銀行は年内にもさらに広がる見通しだ。送金相手の口座番号などを入力する必要がある既存の銀行振込と違って、「携帯電話番号」や「メールアドレス」といったカジュアルな伝え方で、スマホから手軽に送金できる「ことら送金」の登場は、果たして海外のような送金(Instant Payment)ブームを巻き起こせるだろうか。

20の銀行でサービス開始、対応アプリは8種類から

 みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行の出資により設立された株式会社ことら(英文名称:Cotra Ltd.)は10月11日、対応する20行の金融機関(2022年10月11日時点)が提供するスマホアプリを通じて、手数料無料で銀行口座送金ができる「ことら送金」のサービスを開始した。個人事業主を除く個人が対象で、1回あたりに送金できる金額は10万円以内。
 同日に都内で開催されたことらのローンチ記者発表会で、ことらの代表取締役を務める川越 洋氏(写真1)は「ことらには専用のアプリがないことが特徴。すでに広く使われている金融機関のアプリを使うことで、利便性を上げることを目指した。ことらの頭文字である『C』には協調や協力を意味する『コーポラティブ』の気持ちを込めている」と説明した(写真2)

写真1 「ことらをローンチする本日(10月11日)は、縁起の良い“一粒万倍日”です。」と笑顔を見せた、ことら・代表取締役の川越 洋(かわごえ・ひろし)氏

写真2 開始当初は銀行が提供するスマホアプリに限られるものの、仕組み自体は決済事業者が提供するPayアプリなどにも対応が可能

 ことらに対応するスマホアプリはサービス開始時点で8つ。Wallet+、こいPay、J-Coin Pay、はまPay、BankPay、YOKA!Pay(熊本銀行)、YOKA!Pay(十八親和銀行)、YOKA!Pay(福岡銀行)を用いることで、ことら送金と、ことらの受取登録(携帯電話番号やメールアドレスなどの追加)が可能になる(画面1)
 また、これら8つのアプリを通じてことらが利用できる銀行は以下の20行(画面2)。20行の預金口座の合計数は2億1,000万口座を超えるが、そのすべての銀行が送金手数料無料でサービス提供することを表明した。

画面1 「ことら送金」に対応する8つのアプリ(出典:ことらのホームページより)

画面2 ことら送金と受取登録が可能な銀行20行(出典:ことらのホームページより)

 なお、ことらの加盟行は2022年10月11日時点で全57行だが、このうちの先の20行に加えてさらに16行が今後のサービス対応を表明済み(画面3)。対応するスマホアプリも年内にいくつか増える予定だという。

画面3 今後、「ことら送金」に対応予定の銀行16行(出典:ことらのホームページより)


自分が保有する複数の銀行口座間での送金用途にも使える

 「ことら送金」では、送り手側が受け取り相手の情報として、必ずしも口座番号などの銀行情報を必要としないことも特徴になっている。口座情報の代わりに、受け取り相手があらかじめことらに「携帯電話番号」か「メールアドレス」のいずれかを登録しておけば、送り手側はそれらを指定するだけで送金先を確定できる。
 このように「携帯電話番号」か「メールアドレス」を登録してことらを利用したい場合は、前述のスマホアプリが必要だが、口座番号などの銀行情報を相手に伝えて送金を受け取るだけであれば、スマホアプリも不要で利用できる(画面4)

画面4 送金相手の指定は「携帯電話番号」や「メールアドレス」に加えて、口座番号などにも対応している(出典:横浜銀行「はまPayアプリ」の利用画面)

「たとえば『結婚祝い』の受け渡し場面を考えてみると、3万円のご祝儀を50人から頂けば150万円にもなるので、QRコード決済では受け取りにくい金額といえる。しかし、ことらなら対応できる。これまで銀行振込が使われてこなかった分野を開拓していけるサービスだ」(川越氏)として、ことらの手軽さが口座送金の用途を開拓していくイメージを説明した(写真3)

写真3 「ことら送金」の活用が期待される場面の例

 また、給料日のたびに給与口座から現金を引き出して、住宅ローンやマンション管理費、給食費、教材費といった費目ごとに別の銀行へ入金してまわる人も多いが、自分が保有している複数の銀行口座の間であってもことら送金は使えるので、これを利用すればATMに並んだり、あちこちの銀行へ足を運んだりする必要がなくなるだろう。
 ことらでは今後、送金以外のサービス提供も予定している。2023年度から地方税の納付書に納付用のQRコードが印字されるようになるが、ことらでもこの納付書に対応した「ことら税公金サービス」を始める予定だ(写真4)

写真4 送金以外のサービスとして「ことら税公金サービス」を準備中

 

発表会に登壇した「ことら送金」対応アプリの4事業者

写真5 【銀行Pay】横浜銀行 デジタル戦路部 決済ビジネス戦路室 室長 島山 幸晴(しまやま・ゆきはる)氏。銀行Payは横浜銀行とGMOペイメントゲートウェイが共同開発した仕組みだが、「EC決済はこれまでクレジットが中心だが、これも銀行口座から決済できるようになるサービスの提供を予定している」として、今後の機能拡充を予告した

写真6 【J-Coin Pay】みずほ銀行・決済ビジネス推進部部長の松木 博之(まつき・ひろゆき)氏。最近のトピックとして、モバイルSuicaへのチャージ対応、ヤマト運輸の「にゃんPay」や、自治体の給付金用途に基盤として採用された実績を紹介した。今回のことら送金対応は「シンプルに言えば、その他のアプリからJ-Coinペイにチャージができるようになるということだ」

写真7 【Bank Pay】日本電子決済推進機構・事務局長の河合 正博(かわい・まさひろ)氏。Bank Payに参加する金融機関全139行のうち、13行がBank Payアプリのことら送金に対応したことを説明し、今年11月にはさらに6行が追加予定であることを明かした。また、税公金QR支払いや、提携アプリの増加、EC決済への対応など、Bank Payが着々とサービスの幅を広げてきた経緯を紹介し、「今後も利便性と安全性を兼ね備えた口座決済サービスを提供していきたい」と語った

写真8 【Wallet+】iBankマーケティング・代表取締役社長の明石 俊彦(あかし・としひこ)。福岡からリモート登壇した明石氏は、最近200万ダウンロードを突破したネオバンクアプリの「Wallet+」を通じて金融サービスと非金融サービスを提供する概要を説明。ことら送金では「Wallet+」独自の機能として「請求機能」を年度内に実装する予定とした

写真9 当日リアル登壇した4名による記念撮影

ゲストによる「ことら送金」のデモンストレーション

写真10 発表会のスペシャルゲストは関根 勤さん、関根 麻里さん親子。いつもお孫さんにデレデレで、言われると何でも買ってあげちゃうという勤さんに、麻里さんが「はまPay」アプリを使って払い過ぎた代金を返してあげるというデモを披露。麻里さんが「携帯電話番号」を入力して送金先に勤さんを指定して送金したところ、瞬時に勤さんのJ-Coin Payアプリに入金通知が飛んできた

写真11 とにかく報道陣に対してもサービス精神旺盛な関根 勤さん。「おカネって『虎の子』って言いますけど、もしかして『ことら』の虎ってそれとかかってますか!?」と、何か気がついた様子だった

 

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

Comments are closed.