皇居ランナー向けに「決済アクション要らず」の無人ショップが登場。QR提示で入店し、商品を手に取って店を出るだけ

KDDIは12月18日、同社と毎日新聞社が皇居ランナー(皇居の外周路をランニングする人たち)向けに提供している会員施設で、無人ショップと、ランニングフォームの自動解析が体験できる実証実験を12月18日から開始したと発表した。無人ショップではアメリカのスタートアップ企業であるedison.ai Inc.の画像解析技術を採用し、欲しい商品を商品を手にとって退店するだけで自動的にカード決済が完了する。

粗い映像でも商品判定可能、コストはAmazon Goの3分の1以下

 無人ショップを利用するには、あらかじめ会員登録を行って支払いに使用するクレジットカードを登録しておく。その上で、スマートフォン(スマホ)を使って会員ログインし、表示されるQRコードをショップの入口に設置されたスキャナーにかざして認証する(写真1、2)

写真1 入店時に会員メニューからQRコードを表示する。会員ログインはスマホアプリでなく、ブラウザから利用できるようにした

写真2 買い物エリアに入る直前にスマホのQRコードをスキャンする。端末上部に見えるカメラは防犯用で、認証に使用するわけではない

 会員認証が済んだら、そのまま商品の置かれた陳列棚(写真3)まで進んで商品を吟味し、必要なものを手にとって退店するだけでOK。ランナーがショップの買い物エリアを出たタイミングでカード決済が行われ、スマホに通知が表示される。利用履歴から購入した商品名や金額も確認できる(写真4)

写真3 ただ、欲しいと思った商品を手にとって退店するだけで決済が完了する

写真4 利用履歴から詳細な購入情報が確認できる

 自動決済の仕組みを支えるのは、陳列棚の上部などに設置された計4台のカメラ(写真5)。購買行動をカメラで捕捉し、カメラの視点が届かない場所は棚に搭載された重量センサーなどを用いて商品が棚から取り出されたどうかの判定を補完する。「ショップの無人化はセルフレジでも可能だが、買い物客の手間になってしまうので、当社はカメラとセンサーで実現した」とedison.ai Inc.のCSOを務める山浦 真由子氏(写真6)は説明する。「便利さを求めるだけなら自販機でも良いが、ランナーは良い商品を求めている。その際には自分の手で商品を確認できるのがベスト」

写真5 カメラは商品陳列棚の上部などに設置されている

写真6 edison.ai, Inc. CSOの山浦 真由子 氏

 山浦氏は現状の「レジなし店舗」のコスト構造として、高解像度のカメラやサーバにかかる費用が膨大になることが課題だという。これに対してedison.aiの場合は、同社がもともとソーシャルメディア(SNS)に投稿された画像を解析して商品を判定するエンジンの研究開発に取り組んできた経緯から、粗い映像からでも商品判定が可能なことを特長とする(写真7)。低解像度のカメラが利用できることもあり、店舗の導入コストは「Amazon Goなどと比べて5分の1から3分の1程度」に抑えられるという(山浦氏)。
 edison.aiではこうしたコスト優位性も生かし、会員制施設の出入場管理や、レンタルショップの無人化などに展開していきたい意向だ。

写真7 もともとSNSの投稿画像を解析対象としていたため、十分な環境で撮影されたわけでない商品や物体でも判定が可能

KDDIはスタートアップと共に5G時代のネット・リアル融合を追求

 来年の3月31日まで実験が行われる施設の名称は「Run Pit by au Smart Sports(Run Pit)」。Run Pitの月額会員か都度会員であれば、無人ショップだけでなく、ランニングマシンを1分間走ることでランニングフォームの自動解析が受けられる(写真8、9)

写真8 ランニングマシンを1分間走り続けると、画像解析技術によってランニングフォームの解析結果や、走り方に応じたランニングシューズの推薦候補がタブレット画面に表示される。写真中央はこの「Running Form Analyzer」を開発したSportip・代表取締役CEOの高久 侑也氏

写真9 タブレットで撮影した映像から動作解析を行い、個人に最適なフィードバックを返す。分析結果は表示されるQRコードを読み取ってスマホに保存、持ち帰ることができる

 また、来る12月26日の19時30分から21時30分まではモデルのヤハラリカさん参加して、「皇居ナイトラン」のイベントも開催される。同日のイベントでは無人ショップやランニングフォームの自動解析が無料で体験できるほか、最新鋭のARシューティングゲーム(写真10)も体験できるので、興味のある方はイベントに参加することをお薦めしたい。

写真10 AR(仮想現実)グラスをかけつつ、スマホで操作して遊ぶシューティングゲームの「ゾンビボンバーAR」。足元まで迫ってくるゾンビの臨場感がスゴイ

 なお、実証実験はKDDIのインキュベーションプログラムである「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)5Gプログラム」(写真11)の一環として、前記のスタートアップ2社と共同で実施されている。同プログラムの採択企業は66社に上るほか、国内の大企業41社とも提携している(写真12、13)。KDDI ∞ Labo長の中馬(ちゅうまん)和彦氏(写真14)は「5Gの時代に、どんなところからリアルがインターネットに取り込まれていくのかを見極めていきたい」と意欲を見せている。

写真11 KDDIのスタートアップ企業との協業経緯。2012年からはオープンイノベーションファンドを組成し、ファンド投資先企業は67社に上る

写真12 KDDI ∞ Laboの採択実績。2014年頃まではスマホアプリのロゴが目立つが、そこから徐々に一般的な企業ロゴへ変遷していく推移が面白い

写真13 「通信会社はリアルの店舗や物流を持っていないので、リアルのアセットを持つパートナーと連携してスタートアップを応援するように衣替えした。同業種の企業同士が参加しているのも特徴」と話すKDDI ∞ Labo長の中馬 和彦氏

写真14 KDDI ∞ Labo長を務める同社 経営戦略本部 ビジネスインキュベーション推進部 部長の中馬 和彦氏

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

Comments are closed.