【レポート】EUで唯一の英語圏となったアイルランドでFinTech企業が続々と生まれる理由とは?

 

 

9月8日、千代田区・丸の内のFINOLABイベントスペース(東京銀行協会ビル14階)にて、アイルランドのFinTech企業の最新動向を紹介するイベント「World FinTech Day Ireland」が開催された(主催:FINOLAB、共催:アイルランド政府商務庁、IDAアイルランド)。電子決済サービス関連では、DCC(ダイナミックカレンシーコンバージョン)やMCP(マルチカレンシープライシング)を手掛けるFEXCO Merchant Servicesらが登壇して、事業内容と市場動向を紹介した。

 

●金融特区施策をはじめ80年代後半からFinTechに注力
冒頭に挨拶したアイルランド政府商務庁 首席商務官の比留間 玲子氏(写真①)は、アイルランドのFinTech、金融ソフトウェア、サービス企業の動向について概略を説明した。同氏によるとイギリスの南西に位置する島国のアイルランドでは、1989年に金融特区(IFSC)を首都ダブリンに設置して以降、特に「通信」「金融」分野の産業育成に注力してきた。
現在脚光を浴びている「FinTech」にはユーロ通貨導入以前の80年代後半から取り組んできたことになるが、最近でも「アイルランドのフィンテック起業家ビジョン2016」(写真②)を掲げ、国を挙げて積極的な姿勢を見せる。
法人税率が低水準(12.5%)なため、米欧のテック系企業の進出でも有名なアイルランドだが、加えて「アイルランドで起業すると5万ユーロを支援する仕組みなども用意している」(比留間氏)という。
同国に拠点を置くFinTech関連ベンチャーには、投資アプリの開発提供を行うrubicoin社、FXアプリ提供のCurrency Fair社などがあるが、ベンチャー企業を紹介する特設サイト「TECH IRELAND」も立ち上げFinTech企業を集中的に紹介している。
また来年1月24日にはダブリン城において「European Finanncial Forum」を開催予定とのことだ。

写真① アイルランド政府商務庁 首席商務官の比留間 玲子氏

写真① アイルランド政府商務庁 首席商務官の     比留間 玲子氏

写真② 「アイルランドのフィンテック起業家ビジョン2016」

写真② 「アイルランドのフィンテック起業家ビジョン2016」

●人口の半数が35歳以下の同国、「ヨーロッパのFinTechハブ」目指す
「よく(地図でもう少し上のほうにある)アイスランドと間違えられるが、違います」と流暢な日本語で会場の笑いを誘ったのが、アイルランド政府産業開発庁(IDA Ireland)アジア・パシフィック金融業界担当バイスプレジデントのクリス・アルダソン氏(写真③)
アイルランドの人口は約460万人、面積はちょうど日本の北海道くらいだが、ソフトウェアの輸出売上では実に世界第1位(160億ユーロ)を誇るIT国家であることを披露した。
自身も起業家の背景を持つアルダソン氏は「アイルランドが現地企業や外資系のフィンテック企業に適している理由」として、人材の豊かさを最大の理由に挙げた。何と人口の50%が35歳以下で、「EUの中で一番学歴が高い」(アルダソン氏)。また、離職率が低いことも特長だという。もちろん、12.5%の法人税率も売りの1つではあり、現在70カ国以上と租税条約を結んでいるそうだ。現在1,200以上の外資系企業を受け入れている。
言語の問題も大きい。イギリスのEU離脱に伴い、アイルランドはEU域内では唯一の英語圏となった。実は同国の人口の25%は移民により構成されており、アイルランド家庭の1割では自国の言葉を話すという。それが、アイルランドに拠点を持つGoogleなどの多国籍企業では強みになっているそうだ。
こうした風土は研究開発にも向いており、金融決済関連でいえば、MasterCardやCitiグループなどがダブリンにラボを設置しているのをはじめとして、300社以上が研究開発拠点を設けている(写真④)。また、大学と企業と研究所のコラボ案件は1,000件以上に上るという。

写真③ アイルランド政府産業開発庁(IDA Ireland)アジア・パシフィック金融業界担当バイスプレジデントのクリス・アルダソン氏

写真③ アイルランド政府産業開発庁(IDA Ireland)アジア・パシフィック金融業界担当バイスプレジデントのクリス・アルダソン氏

写真④ ダブリンのドックランドは「シリコンドックス」と呼ばれる

写真④ シリコンバレー企業も多く進出するダブリンのドックランドは「シリコンドックス」と呼ばれる

●アイルランドのFinTech系企業が自社の事業をアピール
同日のイベントでは、アイルランドのFinTech系スタートアップ企業から自社のサービス紹介が行われた(写真⑤〜⑫)
なお、主催でイベント会場を提供したFINOLABは、国内スタートアップの海外展開や海外スタートアップの日本進出のサポートを実施しており、海外のFinTechに関連した情報提供を目的として定期開催している。FINOLABは、三菱地所、電通、電通国際情報サービスによる3社協業事業で、一般社団法人 金融革新同友会FINOVATORSが運営に協力している。

写真⑤ Daon Japan カントリー・マネージャー 中村 英樹 氏

写真⑤ Daon Japan カントリー・マネージャー  中村 英樹 氏

写真⑥ 出入国管理や国民ID向けシステムを手掛けるDaon社は、顔画像、PIN入力、音声、TouchIDなど複数の認証手段に対応したモバイルバンキング認証プラットフォーム「Identity X」を紹介。MasterCard、バークレイズ、Citiなどで導入されている

写真⑥ 出入国管理や国民ID向けシステムを手掛けるDaon社は、顔画像、PIN入力、音声、TouchIDなど複数の認証手段に対応したモバイルバンキング認証プラットフォーム「Identity X」を紹介。MasterCard、バークレイズ、Citiなどで導入されている

 

写真⑦ Corvil Japan 日本支社長 大久保 淳仁 氏

写真⑦ Corvil Japan 日本支社長 大久保 淳仁 氏

写真⑧ Corvil社はトレーディング業務における約定率や発注率の分析、金融機関内のシステムのパフォーマンス分析などから適正な運用を維持可能とするデータ分析ソリューションを提供。世界の証券会社大手20社すべてが導入済みという

写真⑧ Corvil社はトレーディング業務における約定率や発注率の分析、金融機関内のシステムのパフォーマンス分析などから適正な運用を維持可能とするデータ分析ソリューションを提供。世界の証券会社大手20社すべてが導入済みという

 

写真⑨ FEXCO Japan リレーションシップ・マネジャー 渡部 剛史 氏

写真⑨ FEXCO Japan リレーションシップ・マネジャー 渡部 剛史 氏

写真⑩ アイルランドの南東、ケリー州キラーニーに本社を構えるFEXCO社は、DCC(ダイナミックカレンシーコンバージョン)とMCP(マルチカレンシープライシング)関連サービスを紹介。世界30数カ国での導入実績があり、日本では三菱UFJニコスとの提携を通じて、2013年10月よりホテルや大規模ショッピングセンターなど向けを中心としてサービス提供している

写真⑩ アイルランドの南東、ケリー州キラーニーに本社を構えるFEXCO社は、DCC(ダイナミックカレンシーコンバージョン)とMCP(マルチカレンシープライシング)関連サービスを紹介。世界30数カ国での導入実績があり、日本では三菱UFJニコスとの提携を通じて、2013年10月よりホテルや大規模ショッピングセンターなど向けを中心としてサービス提供している

 

写真⑪ Aztec Exchange チーフオペレーティングオフィサー Oliver Gabbay 氏

写真⑪ Aztec Exchange チーフオペレーティングオフィサー Oliver Gabbay 氏

写真⑫ 画面は、Aztec社が提供している電子請求書(E-Invoicing)ソリューション「PayMe」のメニュー画面。中南米や北欧を中心として、北米、欧州、オーストラリアなどで導入が進んでいる

写真⑫ 画面は、Aztec社が提供している電子請求書(E-Invoicing)ソリューション「PayMe」のメニュー画面。中南米や北欧を中心として、北米、欧州、オーストラリアなどで導入が進んでいる

 

 

[2016-09-14]

 

About Author

多田羅 政和 / Masakazu Tatara

電子決済マガジン編集長。新しい電子決済サービスが登場すると自分で試してみたくなるタイプ。日々の支払いではできるだけ現金を使わないように心掛けています。

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